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Channel: 指田文夫の「さすらい日乗」
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本当の黒澤明映画は、

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先日、本当の小津安二郎映画は、を書いたが、では本当の黒澤明映画はどれかを考えてみる。

彼の戦後の映画は、以下のとおりである。

 

1946.05.02 明日を創る人々  東宝 1946.10.29 わが青春に悔なし  東宝 1947.07.01 素晴らしき日曜日  東宝 1948.04.27 酔いどれ天使  東宝 1949.03.13 静かなる決闘  大映東京 1949.10.17 野良犬  映画芸術協会=新東宝 1950.04.26 醜聞  松竹大船 1950.08.26 羅生門  大映京都 1951.05.23 白痴  松竹大船 1952.04.24 虎の尾を踏む男たち  東宝 1952.10.09 生きる  東宝 1954.04.26 七人の侍  東宝 1955.11.22 生きものの記録  東宝 1957.01.15 蜘蛛巣城  東宝 1957.09.17 どん底  東宝 1958.12.28 隠し砦の三悪人  東宝 1960.09.15 悪い奴ほどよく眠る  東宝=黒澤プロ 1961.04.25 用心棒  東宝=黒澤プロ 1962.01.01 椿三十郎  東宝=黒澤プロ 1963.03.01 天国と地獄  東宝=黒澤プロ 1965.04.03 赤ひげ  東宝=黒澤プロ 1970.10.31 どですかでん  東宝=四騎の会 1975.08.02 デルス・ウザーラ  モスフィルム 1980.04.26 影武者  東宝=黒澤プロ 1985.06.01 乱  ヘラルド・エース=グリニッチ・フィルム・... 1990.05.25 夢  黒澤プロ 1991.05.25 八月の狂詩曲  黒澤プロ=フィーチャーフィルム... 1993.04.17 まあだだよ  大映=電通=黒澤プロ

黒澤明の代表的作品は、というと普通はまず『七人の侍』だが、次は『用心棒』や『椿三十郎』を挙げる方が多いと思う。

それは、当然で、この2本は大ヒットした作品で、公開時にも、あるいは名画座等の上映でも見た方は多いからである。

だが、私は、この2本は、「黒澤明映画」というよりは、脚本の「菊島隆三映画」ではないかと思っている。

どちらも三船敏郎が演じる浪人だが、ひどく腕がたち、頭脳も明晰な男が活躍する映画は、黒澤明の本質とは無縁のように思える。

菊島隆三は、『兵隊やくざ』のように、勝新太郎の肉体そのもの男と、田村高広が演ずる頭脳の男が、日本帝国陸軍という極限状況で活躍する物語を作った脚本家である。

また、彼は映画界に入る前には自分で実業をしていたこともあり、経理や経営にも詳しい人間だった。

そこで、彼は黒澤プロダクションの代表になる。彼の映画と経営への能力を買ったものだろう。

 

そして、1967年の映画『トラ、トラ、トラ!』の企画と脚本完成になり、1967年12月、東映京都撮影所で撮影に入る。

だが、12月24日に黒澤は、監督を首になってしまう。

この作品は、20世紀フォックスの下請け作品で、予定通りにフイルムを納入しないと莫大な違約金を払う契約だったからだ。

そこで、菊島を代表とする黒澤プロダクションは、「黒澤は精神が異常になった」としてしまう。

精神の異常は、天災等と同じの予見不可能な不可抗力であり、仕方のないことだからである。

そこには保険会社から金がフォックス側に払われたので、問題はなくなったのである。アメリカから保険会社が来て、関係者にヒアリングしたとのことである。

だが、この「黒澤は気が狂った!」の発表によって、黒澤は大変に傷つき、菊島隆三との仲は決裂してしまう。

そして菊島隆三が、亡くなり遺族が彼の遺稿集を出そうとし、『用心棒』や『椿三十郎』を入れようとしたとき、黒澤は許さず、遺稿集にはこの2作は入れられなかった。

中年男の遺恨は恐ろしいというしかない。

本当の黒澤明映画は、『用心棒』や『椿三十郎』のような豪快な英雄を主人公とするものではなく、むしろ『静かなる決闘』のように、うじうじと悩む男のような気が私はする。

 

 


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