以前、桂千穂が日本映画のスクリプターの女性たちにインタビューした名著『スクリプター 女たちの映画史』があり、この中でも取り上げられている白鳥あかねさんへのインタビューの本で、実に面白い。
題名は、彼女が神代辰巳監督の『濡れた欲情・特出し21人』で、信州のストリップ小屋にロケして撮影した時、踊子や彼女たちのヒモ男たちに大変に世話になった。
そして、ロケの最終日の打上げの座敷で、外波山文明、姫田真佐久らが裸になったのに続き、白鳥さんもつい乗って裸になってしまった。
その噂がすぐに砧の日活にも届き、先輩の秋山みよさんから言われたのが題名なのである。
白鳥さんは、早稲田を出て、父親が芥川龍之介の弟子で大逆事件等の研究家神崎清で、新藤兼人が映画『どぶ』を撮る時に家に来ていたので、新藤監督の映画『狼』に付く。
これはオールロケ、オールアフレコのリアリズム映画だったが、近代映画協会は貧乏で彼女を雇えないので、製作再開した日活に紹介してくれる。
最初の作品は、久松清児監督の『月夜の傘』で、その後主に斎藤武市と西河克己監督の作品のスクリプターを務めることになり、西河組のチーフだった白鳥信一と結婚する。
この本を読んで、日活の監督の勢力配置図がよく分かった。
一番は石原裕次郎作品の舛田利雄組で、対して小林旭の「渡り鳥シリーズ」斎藤武市組だった。
西河克己は、松竹以来の文芸路線で、時にはアクションのパロディーで、『俺の故郷は大西部』なんてものも作るが、吉永小百合路線でこれも中心だった。
鈴木清順は、芸術派である本心を隠していたとのことで、裕次郎・旭などの中心から離れて独自路線だったそうだ。
一番面白いのが小杉勇で、彼は言うまでもなく俳優なので、監督をすること自体が楽しくてい仕方がなく、その性でスタッフ、キャストも楽しく映画造りができたと言う。今見ると結構良い作品が多いので驚くのだが。
この本で一番驚いたのが、1964年の大ヒット『愛と死を見つめて』の時のロケ現場に来た吉永小百合後援会の写真である。
それは、品の良い和服姿のおばあさんたちなのである。吉永小百合の人気を支えていたのは、こうした上品な女性たちだったのである。
この映画は、「渡り鳥」を作って来て貢献してきた斎藤へのご褒美で、彼が作りたかった文芸作品だったのだが、当時24億円と言う大ヒットになる。
ロマンポルノになっても彼女は、夫の白鳥信一と一緒に日活に残り、神代辰巳のほとんどの作品に付く。
実に彼女の見方は正確でさすがと思う。ロマンポルノには、西村昭五郎のアナーキーな性格がよく合っていたと言うところ。
また、先日亡くなった加藤彰を高く評価しているところも。
彼の『OL日記・濡れた札束』は、大津の女性銀行員の横領事件を描いたもので、私は当時から大傑作だと思っていた。
最近では、予算のない映画ではスクリプターを省くこともあるそうだが、それではプロの映画はできなだろうと素人ながら私も思う。