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Channel: 指田文夫の「さすらい日乗」
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『長屋紳士録』

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1947年、戦争から戻って来た小津安二郎が最初に作った作品で、会社から「早く作れ」と言われて12日間で野田高吾と脚本を書いたというもの。
主演は荒物屋をやっている飯田蝶子の未亡人で、場所は東京の佃島あたり、築地の本願寺の向かいという設定である。
東京の下町の庶民の話で、戦前に坂本武士が演じた「喜八もの」の飯田蝶子版ともいえるだろう。
そこに易者の笠智衆が、子供を連れてくる。九段で一人でいた男の子で、親と逸れてしまったという。青木放屁で、青木富男の弟である。
飯田は、邪険に扱い、男親を探して茅ヶ崎に行き、海岸では「貝を拾ってきてくれ」と嘘をついて巻こうとするが、青木はどこまでもついてくる。
極端に食料事情の悪いことが反映されていて、今見るとほとんど開発途上国の日常生活並である。
翌朝、飯田は青木がオネショをしたことを知り、ますます嫌になる。
だが、ある日干し柿を盗み食いしたと責めると、実は隣家の雑貨屋の親父河村粂吉の仕業であることがわかり、初めて飯田は青木に素直に謝る。
だが、翌日青木は姿を消してしまい、今度はどこに行ったのかと心配する飯田。
夕方、九段にいたと笠智衆が連れて戻って来て、飯田は本気で青木を育てる気になり、上野の写真屋で二人の記念撮影までする。
だが、その翌日、父親の大工の小沢栄太郎が来て、二人は一緒に帰っていき、本当に九段で逸れたのだという。
子供がいなくなり、長屋の住人、飯田の他、河村、坂本武士、笠智衆、吉川満子らは、戦争が終わった後、自分たちの心がぎすぎすして、余裕を失ってきたと認め合う。
これは、多分戦地から戻って来た小津安二郎が、日本の社会に対して抱いた第一の感想のように思える。
それは、この作品と次の『風の中の牝鶏』によく現れていたと思う。
だが、この2作は、必ずしも好評ではなく、次の『晩春』で、小津は本来の彼自身の生活である、中流でも上層の生活を映画化して成功を収めるのである。
この作品以降、飯田蝶子は小津安二郎作品からは、姿を消すことになる。

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