大阪の女道楽の内海英華が、芸術祭大衆芸能部門の大賞を、隅田川馬石が新人賞を受賞した記念公演が行われた。
渋谷の文化綜合センター大和田伝承ホール。
ここは、昔は大和田小学校の場所らしく、距離は近いがともかく暑いので、駅前からバスで行く。
降りると裏口らしく、表示もないので会場がよく分からなかったが、適当に「ここだろう」と入るとそうだった。
女道楽とは、別に女遊びのことではなく、三味線を使って様々な音曲を聴かせる芸で、立花家橘之助が有名だが、関西には多数いたようだ。
映画『悪魔の手毬唄』の中で、主人公岸恵子が、若い頃その芸人で、「若い女の子が三味線を持ってジャカジャカやるのよ」と説明している。
監督の市川崑は、関西人なので、見たことがあったのだろう。
東京でも、都家かつ江、玉川スミなどの芸人がいたが、現在では、内海英華が代表的な演者であり、前から見たいと思っていた。
彼女は関西の寄席で寄席囃子が本職で、去年東京で女道楽の公演をやったが、都合が悪くて行けなかったので、期待して出かけた。
結果は、期待したほどでもなかったと言うのが、正直な感想である。
本来、女道楽も本質的に「四畳半芸」であり、こうした大きなところで演じるようなものではなく、彼女に大いに不利だった。
また、芸術祭大勝受賞とのことで、少し力は入りすぎていたのだろうか、最後に演じた名曲『たぬき』も硬くて、あまり面白くなかった。
気楽な場で聞くべき芸だと思った。立花家橘之助のようにもっと男道楽をせよとは言わないが。
さて、もう一人の隅田川馬石は、拾いものだった。
前半では『お富与三郎』を演じたが、この話は実に面白い。
ただ、彼がトークの中で何度も断ったように人情話で、笑いはまったくないので、前席の男性3人組は、途中で全員が寝ておられた。
言うまでもなく、歌舞伎の『与話情浮名横櫛』の、「切られの与三郎」で、その源氏店の後半を語ったが、この小悪党たちの悪事は大変に面白い。
三遊亭円朝の『牡丹灯籠』も同じだが、この幕末の世に跋扈する小悪党たちの物語は、現在で言えばベストセラーの犯罪小説、ミステリーである。
当時も今も、、犯罪や悪事と無縁で、まじめに生きるしかない99%の国民にとって、この小悪党たちの悪事と欲望の展開は、一時の解放なのだ。
「お富与三郎」の口調は、三遊亭円生を真似しているのだろうか、旦那の表現に円生に似た表情も見えた。
ただ、やはりホールが結構大きく天井も高くて残響が強いせいか、語句が時としてよく聞こえない時があった。
こういう大きなホールでは、滑舌に気をつけて、ゆっくりとしゃべることが必要なのであろう。
仲入り後の「元犬」は、三遊亭志ん朝バリで、明るくて大変良かった。