小林久三原作の映画『皇帝のいない八月』は、クーデターを計画した連中が、九州からノロノロと上京する間抜け映画だが、このとき初めて松竹大船では、内閣首相官邸のセットを作ったそうだ。
松竹は、基本的に庶民映画だったので、小津安二郎の鎌倉の屋敷や山田洋治の虎屋のセットの実績はあっても、首相官邸の実績はなく、仕方ないので現地に行って寸法を取り、図面を書いてセットを作ったとのことだ。
クーデターというものは、深夜等に起こしてサッとやるもので、政治的に無知な小林の原作では、九州から列車に乗ってノロノロと来るので成功するはずもなく、山本薩夫監督らは、最後を列車爆破にしてしまったそうだ。
松竹というのは、非常に面白い映画会社である。