池田大作氏が亡くなったので、『人間革命』を見る。
ただ、この映画の主人公は、池田氏の前の会長の戸田城聖・丹波哲郎で、池田氏は、写真でワンショット出てくるだけだ。
1945年7月、豊多摩刑務所から戸田が釈放されてくる。妻は新珠三千代で、中野の自宅に行くまでに、戸田は、戦時下の惨状を知る。
そして、8月15日の敗戦、だが、すごいのは戸田はすぐに神田に事務所を借りて、戦前にやっていた出版事業を始める。
ここから、脚本の橋本忍得意の回想になり、戦前に、教員だった戸田は、日蓮宗の思想家だった牧口と会い、日蓮宗に帰依する。当時、牧口も戸田も、同じ東京城南地区の教育者として、公教育の不備に悩んでいて、創価教育学会を作ることになる。
戦前は、義務教育は尋常小学校までで、それ以後は個人の資産によるもので、上層の者しか中学以上へは進学できなかった。そこで起きるのが、左翼による教育運動で、『綴方教室』になる生活綴り方運動などがあり、大田区では赤化教師事件などが起きた。
それに対し、実利的に改革しようとするのが、牧口や戸田で、日蓮宗の精神主義と実利効果で、私塾の運営や参考書の出版で、これは非常に儲かったようだ。
同時に宗教運動もやっていて、次第に信者を増やすが、戦時下の思想弾圧の中で、伊勢神宮の札が国民に配布されたとき、戸田らは信仰から拒否したために、不敬罪に問われ、牧口と共に投獄される。
ここで、戸田は、法華経を徹底的に勉強する。
ここからが面白いところで、彼は、検事の青木喜朗に論破される。
「お前たちの宗教は、二人が投獄されただけで組織はなくなり、思想も不備な邪教だ」と。
青木は、日活の悪役で有名だが、他にも広松三郎、榎木兵衛,伊藤ルリ子など旧日活が多数出ているのは、監督の舛田利雄の人脈だろう。
さて、獄中で苦悩する戸田は、ある日、やっと法華経を理解する。
そのとき、獄層の向こうから陽が上るが、非常に良いシーンだった。
戦後、事業を開始すると共に、昔の信者も集まってきて、戸田は、この「十界論」を彼らに説く。
実に分かりやすくて、明快なもので大変に面白い。丹波の名演技である。
この世には、地獄、餓鬼、畜生、修羅とあり、そこから人道になって声聞、縁覚と上昇し、最後は菩薩となるのだそうだ。
だが、面白いのは、それはあの世にあるのではなく、この世、毎日のわれわれの日常の中にあるというのだ。
これが、本当に日蓮の教えにあっているかは知らないが、日蓮が完全な現世救済だったことは、革命的だったと思う。
天台から真言に至る日本の宗教は、国家鎮護であり、上級貴族の平安で国民には無縁だった。浄土宗も来世救済で、今の幸福を求める庶民にはもどろっこしいもので、現世救済は、庶民には最適だった。
だから、近代でも、北一輝から宮沢賢治に至る思想化も皆日蓮宗である。
この「十界論」のところは、写真、サイレントフィルム等で展開されていて非常に面白い。
中には雪村いずみや黒澤利男らがいるが、ほんの一瞬だが、池田氏の顔も見えた。
ともかく大変に面白い映画であり、ぜひ見てほしいと私は思うのだ。