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Channel: 指田文夫の「さすらい日乗」
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『東京の人』

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2007年に『東京の人』を阿佐ヶ谷ラピュタで見た時のコメントを再録します。

 

           

『東京の人』昭和31年に川端康成の新聞小説(といっても北海道新聞等の地方紙だが)の映画化で、主演は月丘夢路、夫の雑誌社の社長が滝沢修。石原裕次郎が出る以前の日活文芸映画。月丘は、戦前は銀座の宝石店の娘だったが戦後没落し、終戦直後は雑誌が好景気で羽振りが良かった滝沢は、実の娘芦川いづみを連れて月丘と再婚する。ところが、世相が落ち着いてくると滝沢の雑誌が駄目になり、月丘は戦前の店の番頭山田禅二の世話で宝石店を開くことになる。月丘は若い医師・葉山良二を愛していて、滝沢も会社の事務員新珠三千代と出来ている。また、葉山を芦川も恋していて、また芦川には月丘の息子の青山恭二が好きになるという具合に、いくつもの三角関係が交錯する。また、月丘の娘の演劇少女・左幸子は劇団の金子信夫とできているが、金子はいい加減な男で左は次第に不幸になって行く。こんな通俗小説を川端が書いたのも奇妙だが、本当は川端は書けるはずもなく、実際は後に流行作家となる梶山季之が代作した、とある本で読んだ。また、監督の西河克巳によれば、彼らがシナリオの作成中、小説はまだ連載途中でラストは決まっていなくて、仕方がないので西河たちが結末を作り、川端はそれに合わせて小説を完結させたそうだ。月丘の美しさと芦川の可愛さを見せるのが主眼だが、東京の情景も沢山出てくる。中では、滝沢が借金苦で失踪し、浮浪者になるが、その場所が浅草墨田公園の「蟻の町」のすぐそばで、蟻の町が見えるのが貴重な映像。そこでパンソリを歌っている連中がいるが、明らかに朝鮮人であることを示している。蟻の町にも韓国・朝鮮系の人が多かったのだろうか。蟻の町は、戦後生活困窮者が公有地を不法占拠して作ったもので、そこで献身的に奉仕し亡くなったキリスト教徒北原玲子が有名。千之赫子主演の映画『蟻の町のマリア』も、ラピュタで昔見たが、映画化の頃すでに江東区に移転していて、正確なロケではなかったと思う。最後、滝沢は新珠と『浮雲』の森雅之と高峰秀子のように船に乗って東京を離れる。東京を離れることは相当につらいことのように見える。当時はまだ東京と地方の格差は相当にあると感じられていたのだろう。また、テレビの台頭の時期でもあり、左や金子がテレビに出る話も出てくる。余り主題が明確ではないメロドラマだが、強いて言えば「人間は自分の好きなようにしか生きられない」という一種のニヒリズムだろう。さらに大げさに言えば、小津安二郎が『東京物語』で描いたような、戦後の「家庭の崩壊」のドラマとも言えるだろう。この映画で驚いたのは、ヒロインの月丘がいきなり体調を崩し寝込むと、葉山の子を堕ろしたことが分かる件である。ベットシーンはおろか、抱擁するシーンもないので、あれっとびっくりした。当時は、まだ性的描写はきつく制限されていたのだ。『東京の人』と言えば、三浦光一の歌が有名だが、この曲は映画公開半年後にヒットしたので、興行成績には全く寄与しなかったそうだ。   このように本当の作者が書けずに、代作があったのは別に驚くことではなく、『金色夜叉』も、尾崎紅葉の弟子たちの作だったのだから。

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