久しぶりに非常に面白い劇に出会った。
逃げろ、と言われているのは文豪芥川龍之介であり、対するには菊池寛である。
意外なことに、芥川の作品は、劇化、映画化されたことが非常に少ない。
映画『羅生門』の脚本で有名な橋本忍も、『藪の中』を脚本化したのは、「芥川の作品が映画化されていないからだ」と書いている。
それは、彼の師、夏目漱石が『坊ちゃん』をはじめ、『三四郎』、『こころ』、『虞美人』と多数劇化、映画化されているのと対照的である。
この差は、どこにあるのか、漱石の作品は、意外にも世間的であるのに対して、芥川のものは、主知的であるためだろうか。
1918年5月、菊池寛と芥川龍之介は、まだスペイン風邪の余波がおさまっていない東京を逃げ出して、長崎への旅行に出る。
これは、実話である。
その列車の中に、芥川と関係のあった女性、妻、幼馴なじみ、恋愛関係を想像させる女などが乗り込んできて、芥川の小説の人物になって彼を責める。
この書き出しの部分は、彼の小説の解釈で、やや退屈した。
脚本は,畑澤聖信で、演出は西川信弘。
後半は、登場人物が全員河童のかぶり物を被ってでてきて、さまざまに芥川を責めるところは、大いに劇が盛り上がり面白かった。
そして、1927年7月、二度の心中未遂の後、服毒自殺してしまう。
この自殺は、新進文芸評論家だった宮本顕治には、「プロレタリア文学に行けない行き詰まりと時代への不安」とされたが。
要は、統合失調症からのものだと私は思う。
その芥川の死から20年後、1948年3月、菊池も急死する。
彼は、文芸春秋社を作り、多くの作家を送り出したが、戦時中は国に協力し、戦後は戦犯にもされる。
菊池は、簡単に言えば俗物で、対して芥川は、ロマンチストで、良い友人だったのだろう。
紀伊国屋サザン・シアター