1960年、東宝映画、言うまでもなく松本清張原作で、もっとも映画化に成功した作品だろう。
準大手繊維会社の管財課長という堅い、さえない40歳の男が小林桂樹で、実は課内の女事務員・原知佐子を新大久保のアパートに囲っているというか、関係を持っていて、妻の中北千枝子には勿論内緒。
原と熱いひと時を過ごした帰り、道の角で近所の男の織田政雄に会い、つい会釈してしまう。
これが、保険外交員の織田が、その客の向島にいる女(役者は不明)が殺害されて、その犯人にされてしまう。刑事が西村晃で、実に鋭い演技をする。
織田は、新大久保で小林に会ったアリバイを申し立てるが、原との関係がばれてはこまる小林は、警察でも検察でも否認し、渋谷で映画を見ていたという。
そのために、原は古本屋で『キネマ旬報』を買って、筋書きを小林に暗記させるが、この店は神保町の矢口書店だろう。
ついには、織田の妻の菅井きんと弁護士の三津田健が、小林の自宅に来て懇願するが、それでも否認する。
原を見染めた、部長の知り合いの若者がいて、彼と結婚することになり、小林と原は、潮時ときれいに別れる。
だが、原が新大久保から別のアパートに引っ越したとき、彼女は、そこの大学生の江原達や児玉清(ここでは小玉清)らと仲良くなるが、江原は、ヤクザの小池朝雄から麻雀の負けを催促されていて、それを小林に払えと言い、小林も同意して、彼らのアパートの行くと、江原 達怡は殺されている。
動転した小林は、逮捕されて西村の取り調べを受ける。
その時、新橋で映画を見ていましたというと、西村は
「今度も映画ですか!」と笑う。
小林には、目撃者がいず、被害者の血液が付着していたからだ。
最後、小林は、すべてを自白し、釈放され、織田も無罪となるが、小林は家も会社も失うのだった。
ともかく小林以下、役者が素晴らしい。原知佐子も、ネグリジェやショートパンツ姿で実にエロい。
菅井きんと三津田健の弁護士、佐々木孝丸の裁判長、中北千枝子をかなりきれいに撮っていて、「こんないい奥さんがいるのに」思わせ、浮気する小林桂樹の愚かさ。
音楽は重厚な作風の池野成だが、大映作品と異なりかなり控えめ。
これを見るのは、3回目で、今回この小林桂樹と織田政雄が、同じサラリーマンだが、小林は丸の内の大手企業で、織田は、おそらくは歩合制の保険外交員という、「階級差」を描いていることに気づいた。
監督の堀川弘通らは、大手サラリーマンの小林桂樹らの性向にやや批判的に思える。
それは、原作の松本清張のものか、堀川や脚本の橋本忍のものかは不明だが。
衛星劇場