前にテレビでは見たはずだが、山本薩夫監督版は初めて見たが、実に面白い。
関西の万表財閥の当主大介の佐分利信の、ある種強欲ぶりがすごく、まさにこういうのを骨太の人間と言うのだろう。
そして、息子鉄平の仲代達矢との確執がすごい。
その根源は、鉄平が、大介の子ではなく、もしかしたら祖父と母の月丘夢路との間の子ではないかとの疑問からくるというのがすごい。まるで志賀直哉の『暗夜行路』の主人公の疑問のようだが、明治、大正時代の日本の家にはあったことなのだろうかとあらためて思う。
月丘は、貧乏華族のお姫様で、鼓や刺繡をするだけで、家事の一切、息子や娘の婚姻、それはすべて閨閥作りの政略結婚なのだが、秘書で、実は大介の愛人でもある京マチ子が取り仕切っている。
この妻妾同衾というのを日本のメジャーの映画会社で描いたのは、きわめて珍しいことだろう。
話は、大きく二つあり、地方銀行上位の阪神銀行を他の都市銀行と合併して大銀行になろうとする佐分利の野望。
もう一つは、息子鉄平が専務をしている阪神特殊鋼が、自前の高炉を持とうとする計画とその進捗である。
大介は、本心では特殊鋼メーカーが自前の高炉を持つのは、分不相応との考えがあり、それが鉄平の計画の足かせとなっていき、最後は、建設中の高炉が事故で爆発してしまう。
これが元で、阪神特殊鋼は、会社更生法の適用を受け、最後は高炉メーカーの帝国製鉄に合併させられる。
その他、他の銀行、大蔵省、日銀、政治家、上流階級の人々など多数出てきて、ドラマを繰り広げるので、非常に面白い。脚本は山田信夫、撮影岡崎宏三。筋がどんどん進行してゆくので、厭きるところがない。
佐分利の他、悪役は、合併する大同銀行の西村晃や小林昭二などで、これも良い。
これは、地方銀行の阪神銀行が、都市銀行の大同銀行を合併するという、小が大を呑む合併であり、実際にはしばしばある。
1940年代の映画界での、大映の成立は、新興キネマという二流会社が、老舗の日活を呑んだ合併であり、元日活の伊藤大輔や内田吐夢は、この合併劇の犠牲になる。
そこでは、大蔵省から天下りの二谷英明頭取がいるが、彼を出し抜いて、西村らの生え抜き組が、連判状まで作って阪神銀行との合併に進み、二谷はカヤの外にされてしまう。
長女の香川京子は、大蔵のキャリア官僚の田宮二郎と結婚しており、次男の銀平・目黒弘樹の妻は、中山麻里という具合にスターが出ている。
次女酒井和歌子だけは、佐分利らがアレンジした総理大臣の親戚の男との婚約を破棄して、工場長稲葉義雄の息子の北大路欣也と結ばれる。
最後、仲代は、すべてに敗北して猟銃自殺してしまう。
いずれにしても、京マチ子、田宮二郎、二谷英明らが出るのは、大映が倒産し、日活がポルノになった所産だともいえるだろう。