鶴屋南北の名作『東海道四谷怪談』は、なんども映画化されていて、新東宝の中川信夫監督の作品が有名だが、私は1965年に東京映画で作られたこれが一番好きだ。
理由は、役者が良いからで、中村勘三郎の直助と仲代達矢の伊右衛門だが、三島雅夫の宅悦、その女房は野村昭子、伊右衛門に殺されてお岩と一緒の戸板に打ち付けられしまう不幸な小者が矢野宣と皆適役なのだ。
ともかく、勘三郎の嫌らしさが非常に良い。まさにスケベな歩き方が最高!
この映画は、劇団俳優座が小沢栄太郎演出で『四谷怪談』を成功させたので、できた映画だと思う。
そして、お岩を俳優座では、座内の大塚道子だったが、それを松竹の岡田茉莉子に代えてできたものだろう。東京映画は、一応東宝の範囲だが、独立プロなので、「5社協定」外なので、松竹の岡田を出すことができたのだ。同様に、森繫久弥の「駅前シリーズ」も、コンビの伴淳三郎の共演が必須だったので、東宝ではなく、長く東京映画で作られてきたのだ。
筋は、多くの作品と大差はないが、役者の演技がいい。特に仲代と勘三郎が、悪をはたらくことを楽しんでいるように見えるのがすごい。
当時では、この「悪の肯定」は珍しい傾向で、これは当時東京映画で多く作らていた、堀川弘通、橋本忍、仲代達矢らによるサスペンス映画の雰囲気である。
さらに特筆したいのは、セットとカメラで、水谷浩の美術は、1ステージしかなかった狭い東京映画のスタジオに、江戸期の谷底のような起伏のある地形を再現し、村井博の撮影は、多彩な角度の映像を作り出している。
要は、この作品は、主人公の岩、その妹のお袖、さらに伊右衛門に輿入れするお梅、つまり岡田茉莉子、池内淳子、大空真弓らの女性以外の男たちは、ほとんど悪人という凄さなのだ。
監督の豊田四郎は、実はバイセクシュアルだったのだが、ここでは女性を見る目は非常にやさしく、男に厳しいのは少々不思議でもある。
NHKBS