私は、この映画をさして優れた作品とは思っていない。しかし、久しぶりに見て、面白かった。
それは、多くの役者が出てくるからである。
たとえば、銀座のクラブのマダムとして出てくるのが村松英子で、そこの女が夏純子という具合。
警視庁の刑事には、丹古母鬼馬児や山本幸枝さんなども。佐分利信の秘書は、加島潤と、松竹大船の二枚目も。
ここには、新劇の俳優も多いが、当時の若手アングラ系の俳優も出ていて、加藤健一は、三森の警察で、丹波をジープで案内する警官である。国語研究所の職員は、民芸の信欽三だが、化学警察研究所の職員で、血液型の判定をするのは、ふじたあさやである。
最大の意外な配役は、伊勢の映画館ひかり座の渥美清だろう。
また、伊勢の旅館の女将は、春川ますみで、夫は瀬良明で、瀬良は台詞がないが、春川は多くの台詞を話す。
あらためて見て気づいたのは、丹波哲郎の大演説はあるが、全体に台詞が少ないことで、例の本浦親子が放浪するシーンでは、台詞はなく音楽と映像で描かれる。
橋本忍は、「これは文楽で、語りに連れて中で映像が動いていた」とのことだが、まさにそのとおりである。
これは、昭和の浄瑠璃であり、だから多くの人が感動したのだと思う。
出てくる蒲田の飲屋街も今とは大きく変わっている。
加藤剛と島田陽子、緒形拳が亡くなっている今日、主要な俳優でご健在なのは、森田健作と山口果林くらいだろう。
衛星劇場