1960年の映画だが、今見るとびっくりするところが多々ある。
まず、上諏訪に国の通産省だと思うが、局長二本柳寛の娘桑野みゆきが駅から出てくると、県の局長以下が出迎えて、旅館に案内する。
こんなことがあったのだろうか、信じがたい。
局長から頼まれたと言っているが、ひどい公私混同であり、職権乱用である。
少なくとも私が入った1970年代の横浜市ではありえないことである。
桑野は一人で諏訪湖の近くに行き、縄文遺跡の小屋に入ると、若い男の津川雅彦が寝ていて、起きたところ。
縄文人が好きなのだそうだ。
桑野が友達の葵京子と、東京の深大寺に行き、そこの遺跡近くに行くと、また津川がいる。
彼女たちは、津川を古代人と名付けているが、今度は和服の女性・有馬稲子と一緒である。
二人は、新橋演舞場で行なわれたモスクワ芸術座の公演で、津川の隣席にいた有馬が急に気分が悪くなって介抱して知合ったのだ。このモスクワ芸術座の公演は、大変に有名で、1959年に本当に行なわれたことで、渡辺保先生も見たそうだ。
二人は、互いを名前しか名乗らない内に、銀座や横浜などで会うようになっているが、当時のことなので性的関係はまだないようだ。
だが、二人はとうとう静岡の下部温泉に行き、泊ると、台風で鉄道が止り、歩いて富士の宮まで行くのは、凄いことで、20キロ以上ある行程である。
有馬の夫の南原宏治は、政治と財界を結ぶブローカーで、新潟を往復しているので、北朝鮮等に関係しているのかは不明だが、やや暗示的。脚本が、戦時中は『上海陸戦隊』『東洋の凱歌』等で右翼的だった沢村勉なのは意外だが。
南原の側の連中に西村晃、佐野浅夫などがいる。
一方、津川は、実は東京地検の検事で、南原が起こした汚職事件の担当になる。特捜部長が石黒達也という渋い配役がいい。私は、この悪役が好きなのだ。
南原は、政治家や官僚に金をばらまいていて、二本柳も、50万円もらっている。
50万円で、当時では汚職の対象と考えられていたのだから、今日、アオキから5000万円もらった高橋治之は、死刑が相当になるだろう。
特捜の捜査はついに南原の邸宅に及び、津川も来て、妻の有馬と対面することになる。
また、二本柳寛も、逮捕されたとの知らせが来る。
だが、津川と有馬の密会を西村晃らが写真に撮り、法曹界の大物佐々木孝丸を使って津川を左遷させる。
津川は、辞職し、有馬と田舎に行こうと東京駅で待つが、彼女は来ない。
新宿から中央線で富士に行き、青木ヶ原の樹海で死ぬ道を選ぶのである。
原作はもちろん、松本清張だが、この頃には、反米思想はどこにもない。
いつから「諸悪の根源は、GHQ」になったのだろうか。
小さなことだが、南原家の女中は、どこかで見たと思ったら俳優座の女優平松淑美だった。
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