さんざ批判した映画『外濠殺人事件』だが、一つだけ興味深い、貴重な映像があった。
それは、城山順子が働く場所で、浅草の民謡酒場の「おばこ」である。
その名の通り、酒場の中の舞台で、東北民謡の一座がいて、歌っているのだ。
この時期は、まだ民謡が盛んで、また1960年は、東京オリンピクックの直前で、道路や地下鉄工事で、出稼ぎの人も多かったので、こうした故郷の民謡を聞かせる店があったのだと思う。
また、明治以降、日本の芸能で一番の人気だったのは、実は浪花節と民謡だった。
それが、1960年代末に演歌に代わる。演歌は伝統音楽ではなく、この時期に出来た新しい音楽なのである。
そのことは、三波春夫、村田英雄の二人が元は浪花節語りで、同様に三橋美智也が、同様に民謡歌手だったことでも明かだろう。