今日の歌舞伎座の『猪八戒』の作者は、岡鬼太郎だった。私は、この人の劇評が好きなのだが、以前渡辺保さんの本について書いた中で、次のように書いた。
この本で、一番面白かったのは、劇評家の目標として、三宅周太郎、岡鬼太郎、戸板康二の3人を上げていることである。戸板康二は、テレビにもよく出て、推理作家、劇作家としての仕事もあったので知られているし、三宅周太郎も歌舞伎の評論家としては有名なので、知っている方も多いだろう。だが、岡鬼太郎は、その名を知っている人は、そう多くはないのではないかと思う。私は、20代で、偶然に実家の池上にあった古本屋で『歌舞伎と文楽』を買い、この人の批評に引かれた。渡辺さんも書かれているが、この岡鬼太郎は、劇評が辛辣なので有名で、六代目尾上菊五郎でも「ニン」に合わない役の時は、「ご苦労」の一言なのである。随分と厳しく書かれて、平気だったのかと思うが、岡鬼太郎は、後に新聞社から松竹に招かれて演出にも携わることになるのだから面白い。思えば、松竹も随分と度量があったと言うべきだろう。
その鬼太郎にしては、沢瀉流に「妥協した」ような元気で煩いだけの劇にも思えたが、どこまでが鬼太郎のものかはわからなかった。