監督の丸根賛太郎は、『春秋一刀流』と『狐のくれた赤ん坊』くらいしか映画史に残っていないが、私はかなり好きな人である。抒情的で、面白く、対象の違いはあるが、清水宏に似ていると言えるかもしれない。
これは、1954年の宝塚映画で、主人公は小堀明男と尾上さくらの東宝系だが、月形龍之介、荒木忍、夏川静枝と他社の役者が多い。この宝塚映画は、東京の東京映画と同じで、宝塚歌劇団の女優を出すためというよりも、関西の他社のスタッフ、キャストを使っての時代劇の製作だった。その意味は、5社協定の問題と日本中にまだ時代劇しか見ない観客がいたことである。宝塚映画は、一応独立プロなので、5社協定に束縛は受けず、月形のような他社の役者を使えたのだ。それは東京映画も同様で、『駅前シリーズ』が1作目以外は、東京映画だったのは、5社協定外だったことがある。同シリ-ズには、伴淳三郎が不可欠だが、伴淳は松竹なので、普通は東宝系には出られなかったからだ。
さて、この作品の原作は村上元三で、題材は旗本の水野十郎左衛門で、切腹させられた後の、息子の話である。
この水野と息子を小堀が二役で演じる。父が切腹させられた後、子は蜂須賀家に預けられて成人する。
母の夏川静枝に再会するため、小堀は江戸に出てくる。江戸では、水野の子分で今は首領になった江川宇礼雄が小堀を殺そうとしている。そして、小堀は虚無僧で、尺八を吹き、少林寺拳法の使い手になっている。
この辺の設定は不明だが、村上元三なので、一応根拠はあるのだろう。
最後、検校の荒木忍の三曲演奏に小堀の尺八が陰で演奏され、その曲で夏川が気づく、水野が演奏していたものだと。
村上や師の長谷川伸の戯曲には、音や曲が主人公たちの覚醒につながる場目がある。
ここの三曲の演奏をバックの小堀と江川ら旗本とのアクションは面白い。
もちろん、小堀が勝って無事母と再会して終わり。
衛星劇場