先日やった「映画は都市のアルバム」の中でできなかったことの一つに、『東京物語』の熱海のシーンがあった。
あそこでは、尾道から上京した笠智衆と東山千栄子夫妻が、実の息子の山村聰と娘の杉村春子には、じゃんけんに扱われ、杉村の提案で熱海の旅館に行く。
ところが、職場旅行の団体が騒いでいて、二人はなかなか寝られない。
外では、流しが『湯の町エレジー』を歌っている。2人のギター弾きの真ん中にアコーディオンの女性が見える。
彼女は、村上茂子さんで、当時大船管弦楽団のメンバーで、小津安二郎の愛人だった。
村上さんは、東京下町の弟の家に同居し、普段は近所の子供にピアノを教え、録音があるときは大船で演奏していた。
そして、彼女は独身だったが、戦前に一度結婚したが、夫は戦争で死んだのだそうだ。
つまり、『東京物語』で、原節子が演じた、笠智衆と東山千栄子夫妻の戦死した次男の妻は、この村上茂子さんがモデルだったと思うのだ。