Quantcast
Channel: 指田文夫の「さすらい日乗」
Viewing all articles
Browse latest Browse all 3529

『どん底・1947年東京』

$
0
0
私は、劇の古典は、その通りやった方が良いと思っている。シェークスピアなども、いろいろと趣向を変えてすることがあるが、一度も良いものを見たことがない。これも、ややそれに近いできと言うべきだろう。
            しかし、なにせ原作は1910年の帝政ロシアなのだから、変えてみたいと思うのも無理はない。1985年に新劇団協議会が佐藤信の作・演出でやったときは、昭和10年の新宿のトンネル長屋に設定されていた。
この吉永仁郎作、丹野郁弓演出では、1947年末の新橋の焼跡のビルの地下が宿になっていた。もっとも、この『どん底』は、いろんな劇に影響を与えている。菊田一夫の『放浪記』の渋谷の木賃宿、森光子のでんぐり返しで有名なシーンは、明らかにこの『どん底』である。 
そこには、靴屋、仕立屋、元華族の男、担ぎ屋、売春婦などが住んでいる。いろいろと趣向はあるが、ドラマらしい起伏はないので、1幕は何度か寝てしまった。私の前にいた女性は、休憩で帰ってしまい、二幕目は来なかった。二幕目は、女性の姉妹をめぐるさや当てがあり、格闘の末に人殺しがあるが、それほど大きなドラマではない。もともと、ゴーリキーのドラマが、チェーホフ的で日常的な作りだからなのだ。要は、筋というよりは、役者で見せる劇なので、ここには有名俳優が、日色ともえくらいしかいないので、見るのは辛いのだ。そして、1947年東京とわざわざ冠しているのに、時代の描写が欠けていると思う。この頃、最大の問題は、「東京裁判」であるはずで、まったく一言も触れないのはどうしたわけなのだろうか。唯一、時代的な話題としては、「宝くじが100万円になった」だけとはどうしたことだろうか。紀伊國屋サザンシアター


Viewing all articles
Browse latest Browse all 3529

Trending Articles