映画『野菊の墓』は、言うまでもなく松田聖子の主演である。木下恵介の『野菊のごとき君なりき』のリメイクだが、それは主演俳優を大々的に募集したもので、私の知り合いも応募し、勿論落ちたそうだ。受かったのは、有田紀子と田中晋二で、この二人は松竹作品にたくさん出ていて、田中は意外にも大島渚の『青春残酷物語』にも学生役で出ている。
北関東だろうか、農村の大家斉藤家の次男の政夫の桑原正は、母加藤治子の姪で、自分には従兄弟となる女中の松田聖子の民子が来ることが楽しみである。桑原は、オーディションで選ばれたが、結局俳優にはならなかったようだ。監督の沢井信一郎は、ルックスで決めたとのこと。話は、巡礼の身となった政夫の島田正吾の回想で始まる。前作では笠智衆で、回想部分は、卵型の枠で表現される。当時でも、「これは現実ではありませんよ」というエクスキューズだが、木下恵介は本質的にリアリズムなので、そうせざるを得なかったのだろう。
市川崑は、「シナリオと配役ができれば映画は終わったようなもの」と書いているが、松田と桑原以外は、ベテランで、加藤の他、長男夫婦は村井邦夫と赤座美代子、女中頭に樹木希林、民子の父に愛川欽也、その妻は色っぽいので誰かと思うと白川和子だった。加藤は、政夫が民子を好きなことは分っているが、民子の方が年上なことで、結婚は無理と思っている。年上云々は、言訳で本当の理由は、言うまでもなく松田の方が低い家柄だからだろう。家は、まだ加藤治子が握っていて、男言葉の台詞になっている。松田と桑原との交流は、綿摘みなど上手く描かれている。
そこに、本家の叔父の丹波哲郎から、隣村の吉岡家の軍人の嫁にとの話がくる。一応、丹波の家に養女として入って吉岡家に嫁入りする。
原作では、桑原の斉藤家は普通の農家らしいが、ここでは醤油作りもする家になっている。ここで凄いのは、松田は女中なのにまったくの無給で、男女の使用人も給与は大してないようで、祭の時に特別にお小遣いを与える程度のように見えることだ。私も、相川議長の秘書の時、かつては醤油屋もやっていた相川議長から、正月のお年玉をもらったことがある。当時は、農村は非常に低賃金で、食い扶持減らしで雇用されていたのだろう。脚本は、宮内婦貴子で、全体に女性の立場を尊重しているようだ。
松田の嫁入りの行列もかなりなもので、中学生の桑原は、樹木希林から知らされて急遽列を追いかけてくるが、映画『卒業』のようにはならず、彼女に野菊を渡すのみ。
民子は、嫁入りしても北城真紀子の母親には冷たく扱われ、まるで女中で、妊娠中の重作業をしたので、流産して死ぬ。最後、成長した政夫の島田正吾が巡礼姿になっているのは、どういうわけなのだろうか。加藤らから「将来のある身・・・」とさんざ言われていたのに、そうはならなかった意味は。蓮見重彦先生ほどの激賞ではないが、できは非常に良いと思う。画面が非常に良いと思うと、旧大映の森田富士郎の撮影で、瞽女や洗い張りが出てくるなどの時代考証も優れているが、これは沢井の「日本の昔はこうだったのだよ」という若い観客への説明のように見えた。
日本映画専門チャンネル
北関東だろうか、農村の大家斉藤家の次男の政夫の桑原正は、母加藤治子の姪で、自分には従兄弟となる女中の松田聖子の民子が来ることが楽しみである。桑原は、オーディションで選ばれたが、結局俳優にはならなかったようだ。監督の沢井信一郎は、ルックスで決めたとのこと。話は、巡礼の身となった政夫の島田正吾の回想で始まる。前作では笠智衆で、回想部分は、卵型の枠で表現される。当時でも、「これは現実ではありませんよ」というエクスキューズだが、木下恵介は本質的にリアリズムなので、そうせざるを得なかったのだろう。
市川崑は、「シナリオと配役ができれば映画は終わったようなもの」と書いているが、松田と桑原以外は、ベテランで、加藤の他、長男夫婦は村井邦夫と赤座美代子、女中頭に樹木希林、民子の父に愛川欽也、その妻は色っぽいので誰かと思うと白川和子だった。加藤は、政夫が民子を好きなことは分っているが、民子の方が年上なことで、結婚は無理と思っている。年上云々は、言訳で本当の理由は、言うまでもなく松田の方が低い家柄だからだろう。家は、まだ加藤治子が握っていて、男言葉の台詞になっている。松田と桑原との交流は、綿摘みなど上手く描かれている。
そこに、本家の叔父の丹波哲郎から、隣村の吉岡家の軍人の嫁にとの話がくる。一応、丹波の家に養女として入って吉岡家に嫁入りする。
原作では、桑原の斉藤家は普通の農家らしいが、ここでは醤油作りもする家になっている。ここで凄いのは、松田は女中なのにまったくの無給で、男女の使用人も給与は大してないようで、祭の時に特別にお小遣いを与える程度のように見えることだ。私も、相川議長の秘書の時、かつては醤油屋もやっていた相川議長から、正月のお年玉をもらったことがある。当時は、農村は非常に低賃金で、食い扶持減らしで雇用されていたのだろう。脚本は、宮内婦貴子で、全体に女性の立場を尊重しているようだ。
松田の嫁入りの行列もかなりなもので、中学生の桑原は、樹木希林から知らされて急遽列を追いかけてくるが、映画『卒業』のようにはならず、彼女に野菊を渡すのみ。
民子は、嫁入りしても北城真紀子の母親には冷たく扱われ、まるで女中で、妊娠中の重作業をしたので、流産して死ぬ。最後、成長した政夫の島田正吾が巡礼姿になっているのは、どういうわけなのだろうか。加藤らから「将来のある身・・・」とさんざ言われていたのに、そうはならなかった意味は。蓮見重彦先生ほどの激賞ではないが、できは非常に良いと思う。画面が非常に良いと思うと、旧大映の森田富士郎の撮影で、瞽女や洗い張りが出てくるなどの時代考証も優れているが、これは沢井の「日本の昔はこうだったのだよ」という若い観客への説明のように見えた。
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