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Channel: 指田文夫の「さすらい日乗」
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『価値ある男』

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戦後の映画俳優の中で、最高は言うまでもなく三船敏郎だと思うが、その証拠の一つに外国映画に出た回数もたぶん最高なはずだ。『グランプリ』『レッド・サン』『太平洋の地獄』など多数あるが、その最初が、メキシコ映画というのは、実に三船敏郎らしいと思う。彼は、日本の侍精神として、「弱いものの味方」であり、メキシコという決してメジャーでない国の映画に出たのは、まことに三船らしいと思う。昨日の朝、ワイドショーを見ていたら、例の学術会議のことを橋下徹と、元NHKで今は芸人という「たかまつなな」が議論していた。橋下が「こんな女などいじめてやろう」という感じたっぷりで偉そうに恫喝しているのが見えて、非常に不快だった。橋下は、本質的に差別主義者であり、それを肯定している。
三船は、弱いものいじめはしない。それは彼が弱いからである。メキシコでは、村々で祭が盛大に行われるが、その時司祭から指名されて、マヨドールモという男がある仕きたりがあるとのこと。それは、人格的にも優れた人間だが、祭のすべての予算を持つのだそうだ。三船は、酒好き、博打好きで、無学で働かず、非常にだらしのない男で、冒頭は赤ん坊が死ぬところから始まる。何しろ字が読めないんだから。彼は、偉い人になろうとしているが、酒と博打で金を浪費してしまい、一向に偉い男になれない。妻は、何とかしようと酒造工場に勤めさせる。それは、ソテツのような大きな植物の葉を切り、樽の中で女性が裸足で踏んで樹液を出し、発酵させて酒にするもので、テキーラの一種だろう。彼の妻のほか、娘も工場で働くが、彼女を工場主の息子が気に入ってしまい、工場内で性交する。見た三船は激怒して、刺叉のような道具で、その男を刺してしまう。殺人未遂で逮捕され、収監される。裁判はなく、保安官のような男が、即決して禁固1年で投獄してしまう。妻は、釈放を懇願すると、保釈金1500ペソだというが、この妻も無学なので「保釈金」の意味が分からない。しかし、妻、息子、娘らは懸命に働き、小金を貯めて1500ペソを払い、三船を保釈させる。だが、今度は村の商売女カトリーヌの誘惑に乗ってしまい、一緒になってしまう。そして、再び酒と博打の日々に戻ってしまう。こんなひどい男の話になぜ三船敏郎が出たのかと思うが、一向に彼は偉い、価値ある男にはならない。鶏闘での博打など、いろいろと挿話はあり、それはなかなか面白い。
最後、工場主が大金を持っていきなりやってきて、息子が三船の娘に産ませた子供をくれと言ってくる。たった1回の性交で子ができたのかと思うが、まあいいだろう。三船は、この大金で村の祭りのマヨドールモになり、誰にでも金をばらまく。そして、祭は盛大に行われ、彼は念願のマヨドールモとして行列の先頭に立つが、「誰も俺を褒めない」と疑問を持つ。村人は言う、「また子供を売って金を得るのだ」と。この辺の村人のクールな感じもすごい。また、カトリーヌが出てきて、ここでも三船は彼女の誘惑に乗って二人で村を出て行こうとする。すると妻が出てきて、カトリーヌを刺し殺してしまう。すると三船敏郎は、「俺の仕業だ」として自分で警察に向かう。村人は、協議してこれで良いとする。彼は、最後の最後で「価値ある男」になったのだ。多分、メキシコの寓話などと混ぜた物語だと思うが、三船敏郎の「贖罪意識」はよくわかる映画だった。衛星劇場



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