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Channel: 指田文夫の「さすらい日乗」
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『映画監督・小林正樹』

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以前、読んだが、図書館で借りて読んだので、じっくりと読めず、今回買ってゆっくりと読む。
小林は、私にとっては新藤兼人と並び非常に苦手で、そのまじめすぎるところが、見ていて辛いのだ。
ただ、今回じっくりと読んで再認識したのは、小林は戦争にずっとこだわってきたなということだ。
小林と言えば、『人間の条件・三部作』だが、その他にも劇映画として、広田弘毅首相を主人公に『東京裁判』を作る企画があり、八住利雄の脚本も作られていたのだそうだ。これは、予算面で駄目になるが、後にこれは記録映画『東京裁判』になる。
また、日活が山本薩夫監督で作った、五味川順平の『戦争と人間』も、テレビで作る企画もあったとのことだ。
それほどまでに小林が、太平洋戦争にこだわったのは、自分の体験から来ているのは、間違いない。
彼は、実際に大きな戦闘にには遭遇しなかったが、徴兵されて最初は満州のソ連との国境地帯、さらに末期は宮古島という戦場にいて戦争と軍隊を体験している。
その意味では、作家の大岡昇平とよく似ていると思う。大岡は、戦争末期に徴兵され、フィリピンに送られ悲惨な戦争を体験し、それを『俘虜記』と『野火』という名作を書いている。
彼は、そのことについて、無謀な戦争に追い込んだ軍部と政治家を呪ったが、それに対してなにもしなかった自分を自覚したと書いていたはずだ。
小林も、小樽の比較的裕福な家で育って、早稲田で東洋美術を学ぶというインテリ世界にいて、戦争に向かう日本社会に何かをすることはなかった。
彼がいた松竹は、不思議な映画会社で、戦争に積極的でなかったため、小津安二郎、木下恵介、佐野周二、小林正樹など、軒並み徴兵されている。
対して東宝の黒澤明は、一切徴兵されていないのは、東宝が一種の「軍需企業」だったからだ。

また、この本で初めて知ったが、映画『人間の条件』の最後は、松山善三が書いた初校は、現在のものとは大きく異なったいたとのこと。
そこでは、最初に出てきた朝鮮人の娼婦有馬稲子が現れて、仲代達矢をはじめ日本人を強く糾弾するものだったそうだ。

                    

現在の、ヘイト状況から見れば信じがたいが、松山善三のような穏健なヒューマニストでも、戦前、戦中の日本のアジアへの罪を感じていたことである。
映画『東京裁判』が公開された時、小林は、戦時中は軍の将校だった人たちから、「こういう経過で戦争に従事したとは初めて知りました」との感想をもらったそうだ。
あの作品は、それだけでも意味があったというべきだろう。






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