2年前に亡くなられた宮崎晃は、脚本家としては多数のすぐれた作品を残されたが、正直に言って監督としては、やや不満が残る。
ここでも、最後の福岡の病院で、交通事故で入院している北村和夫、その妻浅丘るり子、さらに北村の母の荒木道子らの場面、また話の始まりの中村雅俊の姉吉野妙子と大出俊夫妻等の場面は良いからだ。
だが、主人公の大学生の中村、友達の檀ふみ、さらに中村のダチ公の水谷豊などの大学生の場面になるとダレルからだ。
要は、プロの役者だと締まるが、素人俳優だとドラマにならないというのは、厳しく言えば演出力の問題だと思うのだ。
大学で何をしているのか不明の学生の中村雅俊の姉・吉野の夫大出の妹が檀ふみで、彼女は人形劇のサークルにいる。
どうして大学生というと人形劇が出てくるのか。関根恵子・草刈正雄の凡作『神田川』でも、草刈は人形劇クラブだったが、当時そんなに盛んだったのだろうか。
ちなみに、村上春樹先生は、人形劇部にいて、そこは、早稲田の九号館を学生劇団が勝手に占拠した「九号館共闘会議」のメンバーであり、彼の処女作『風の歌を聴け』には、九号館の封鎖解除の模様が出てくる。それを読んで私は本当に驚いた。九共闘のメンバーにこんな優秀な奴がいたのかと。
さて、マンションに住んでいた大出・吉野夫妻は、アメリカに赴任することになり、留守番として中村がそこに住む。
すると、檀も大出から話を聞いて、人形劇の稽古場として使う許しを中村から得る。
中村がマンションに移り住むと、ある日突然美女が吉野のところに訪れ、アメリカに行っている旨を言うと帰るが、エレベーターの前で倒れてしまう。
浅丘ルリ子である。
1975年なので、ポルノの日活から出ていたのだが、特別出演になっているが、ほぼ主人公である。
これで中村が、有夫の浅丘に惚れたらバカだなと思うが、その通りになっていく。
要は、ツルゲーネフの『初恋』だが、これは男に純粋さが、女にもまさか有夫ではという意外性がないとドラマにならない。
その点では、小谷承靖監督で、井上純一が、別荘地で仁科明子に一目ぼれするが、彼女は井上の父の二谷英明の妻だったという方がはるかに良かった。
井上に会った純粋性が、中村雅俊にはないからである。
中村は、いろいろと理屈を付けて浅丘とデートし、多忙で家にいない夫から逃げてきた浅丘も、なぜか彼と付き合い、湾岸のホテルで食事をした後、ベッドインする。浅丘のベッドシーンは珍しく、たぶん『水で書かれた物語』くらいだと思うが、大したことはない。
その翌日、羽田空港から電話がかかってきて、夫が交通事故で入院したので浅丘は福岡に帰るという。
あたり前ではないかと思うが、その通りで、そこで中村が飛行機で九州に行くのは、本当にご苦労様です。
もちろん、振られて東京に戻り、檀ふみと再会して終わり。