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Channel: 指田文夫の「さすらい日乗」
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『青べか物語』

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1962年の川島雄三監督作品、原作は山本周五郎で、ほとんど原作通りだと思う。
作家の私・森繁久彌が、ある日、橋を渡って浦粕にやってくる。もちろん、浦安のことで、当時はこんな状態だったと思うと驚く。
1964年ごろから埋立がはじまり、まったく変わってしまったのだから、現在では貴重な映像である。



貝の缶詰工場で働いている山茶花究の家に下宿するが、いきなり船頭の東野栄次郎が異常に野卑でケチな男で、やたらに森繁にたかるのが笑える。
東野は、二言目には「俺たちは仲間だ」と言って森繁から物をたかってしまう。
消防団長が加藤武で、この新劇団の二人が、やたらに下品な言動をするのがおかしい。
天ぷら屋の親爺が桂小金治で、その妻は市原悦子、船具屋はフランキー堺で、母親は千石規子、床屋は中村是公、ごったく屋という居酒屋の女将は都谷かつ江と川島好みの俳優ばかり。
全体にやり好きで、悪乗りの演技であるが、そこが楽しい。

これを見て思うのは、「庶民主義」といった感じである。
芥川龍之介は、「人生は、ボードレールの一行にしかない」と書いたが、ここにあるのはその逆である。
どのように平凡に見える人生にも、大きく深い劇があるということだろう。

その例の一つが、ポンポン船に住んでいる老船長左朴全で、彼の若いころ、村の娘桜井浩子との淡い恋とその別れである。
この撮影の時、助監督の山本邦彦は、「日本で女性が別れで手を振る習慣はあったのですか」と聞かれ、
山本氏は、『万葉集』の一句を披露したところ、「結構デス」と言われたそうだ。
また、右足が不自由な妻乙羽信子を異常なやさしさで扱う夫山茶花の話で、元は暴力的な山茶花は、乙羽と結婚後も彼女に暴力をふるっていた。
だが、ある時、「殺すのだけはやめてください」と言われて、すべて悔悛しやさしい夫になった。
さらに、乞食娘の南弘子が、浦粕にずっといるのは、自分たちを捨てて男と逃げた母親への仕返しをするためだったことも最後に明かされる。
この女が、いつもは善人役の丹阿弥康子であるのも面白く、意外な配役である。
町の食堂で掛っているいるSPは、『ラ・パロマ』で、中村とうようさんによれば、世界で最初の大ヒット曲だそうだ。
撮影の岡崎宏三さんのカメラが素晴らしいが、いろいろとフィルターを使って微妙な色を出しているようだ。

衛星劇場
   

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