世に羊頭狗肉は多いが、これほどのものはないに違いない。
美空ひばりと阪東妻三郎の共演と思うだろうが、二人は主役ではなく、本当の主人公は、市川小太夫と花柳小菊である。
市川小太夫は、その名の通り市川家の役者だが、なぜか歌舞伎には出ず、松竹の映画に出ていて、時代劇のみならず現代劇にも出ている。
先日見た川島雄三の『真実一路』でも、奔放な生き方の淡島千景に批判的な叔父として出ていて、少しくせのある台詞廻しだった。
捕物帳と言うので、市川小太夫は岡っ引きかと思うとただの浪人らしいが、実は隠れキリシタンの頭目なのだ。
彼らは、天草の乱の時に細川家に奪われた十字架を探していて、次々と細川家の人間が殺される。
天草の乱の平定に細川藩が行ったのかどうか知らないが、近くなので多分行ったのだろう。
捕り方は、小津安二郎の映画でも有名な北竜二で、神妙な武家姿で演じている。
美空ひばりは、花柳小菊の三味に合せて歌う少女で、阪妻は、キリシタン一味に剣術を教えている浪人で、「私はキリシタンではない」と言っている。
花柳小菊もキリシタン一味だが、なぜかひばりは、細川家の御落胤で、最後は男の子になってしまう。
ともかく相当にひどい筋だが、脚本は大映のベテラン、八尋不二で、監督は小津の弟子でもある原研吉とは驚き。
1951年の正月用に急遽作った作品なのだろうか。
この程度でも、お客さんは沢山入ったのだと思うといい時代だったわけだ。
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