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Channel: 指田文夫の「さすらい日乗」
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『さよならはダンスの後で』

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監督の八木美津雄は、前に川崎で見た『あの波の果てまで』が非常に良かったので、これもどうかと見に行くと大変に良くできていた。
ただ、この人は真面目な方のようで、あまり派手なところがなく、ハッタリに欠けるところがある。



話は、弟の藤岡弘が家出をしたというので、桑野みゆきは駅に急ぐがバスが事故で止まったので、通りかかった沢本忠雄の車に乗せてもらい駅で藤岡と恋人と会うが、なんと二人は駆け落ちして東京に行くという。
桑野は、旅館で働いていて、戻るとなんと客は、沢本という偶然。
彼は、小林旭、川治民生と日活の「三悪」として売り出されたが、暴力的な小林や川治とは異なり優しい二枚目で、松竹のメロドラマに合っている。

二人は惚れ合ってしまうが、沢本には会社の部長大森義夫の娘と婚約していて、これが足かせになる。
桑野は、旅館で義理の叔母沢村貞子の下で働いているが、見合いでよい相手を見つけてあげるという沢村に対して、一人で上京してしまう。

桑野の幼馴染みに歌手の倍書千恵子がいて、作曲家河野秋武の下で練習しているが、その曲は言うまでもなく『さよならはダンスの後で』で、河野は言う。
「テクニックは巧いが、君には女としての感情が欠けているなあ・・・」

沢本の行為に怒った大森は、彼を大阪支店に左遷してしまうが、沢本が新幹線で大阪に行く車内になんと桑野が乗っている!
驚く沢本だが、二人は大阪に着くと、彼は支店長の北竜二に退職を申し出て、本当に退職してしまう。
沢本が東京に戻ったり、いろいろあるが、桑野は沢本と一日大阪で過ごし、最後は神戸のホテルで一夜を過す。
だが、翌朝沢本が目を覚ますと桑野はいない。
彼女は東京に行ってしまったのだが、その理由は藤岡が会社の金を落としたという薄弱なものであるのは問題だが。

そこから、すれ違いメロドラマの悲劇になるが、重要なのは従来の作品群とは異なり、転落するのは桑野ではなく、沢本であることだ。
従来のメロドラマの女性の悲劇は、この1960年代中頃ではもう変になっていたのだ。

桑野は、東京で働き、倍賞千恵子は、『さよならはダンスの後で』のヒットで、地方公演に行き、福井駅で、タクシーの運転手になっている沢本を見かける。
彼女は、驚くが、幼馴染み仲間との宴会で、沢本がタクシーの運転手になって酒浸りになっていることも聞き、目撃は本当だった。

桑野が北陸の空港に着き、倍賞に町外れの小料理屋に連れて行かれる。
そこには泥酔して、店から追い出される沢本がいて、彼は線路ぎはの場所で、街娼に声をかけられ、抱くが
「忍・・・」と言ってしまい、そのまま崩れ落ちるが、女は怒って沢本を突き飛ばす。忍は、桑野の名前である。
するとヤクザが二人現れて、沢本は殴られる。
その時、桑野は、「こんなにも自分を思っていて・・・」と気づき、倍賞も羨ましく思う。
桑野は、沢本を抱き上げて、二人は抱き合う。

最後、キャバレーで倍賞が『さよならはダンスの後で』を歌っていて、河野と倍賞のマネージャーの柳沢真一が見ていて、河野は言う、
「彼女は本当に上手くなったね、どこで女の感情を得たのだろうか・・・」
倍賞に惚れていて、いつも口説いている柳沢は言う「俺以外にいるはずはないいんだが・・・」

柳沢や沢村らのベテランの演技が非常に面白かった。
もう一つ、冒頭と最後で倍賞が歌うのは、赤坂にあったグランドキャバレー「月世界」で、その映像は貴重で、初めて見た。

国立映画アーカイブ

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