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Channel: 指田文夫の「さすらい日乗」
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工藤栄一だった 『高瀬舟』

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『高瀬舟』を最初に読んだのは、たぶん中学生の頃だと思うが、「殺人の場面」だけが記憶に残っていた。
この森鴎外の小説は、安楽死を提起したといわれているが、今日で考えれば自殺ほう助である。

京の高瀬川を下る船の中で、役人の前田吟に殺人犯の岡田吉弘が自分と弟との経緯を語る。
川の両側の庶民の姿が細かく描写されているのは、脚本の松山善三らしいなと思う。
         

江戸時代の最下層の庶民の話で、孤児だが屋根葺きの仕事を得ていた兄弟だったが、弟は足を踏み外して屋根から落ちて腰を打ち、下半身不随になってしまう。
一切の仕事もできなくなり、子供からも虐められ、ある夜、岡田が長屋に帰ると弟の首にカミソリが刺さっている。
自殺を図ったのだが、切れずに苦しんでいる。
岡田は仕方なく引き抜くと死んでしまう。
だから、これは安楽死ではなく、自殺ほう助だと思うが、奉行所の取り調べで島送りになる。

役人の前田吟は、この平安な心にある犯人の精神に非常に打たれる。
森鴎外が、なぜこれを書いたのか私は知らない。
そして最後、監督は工藤栄一だったとは驚く。

深作欣二によれば、「到底慶応ボーイには見えないバンカラな」工藤栄一で、深作の言う通り、暴力的で激しい描写の監督だった。
だが、1988年の晩年には、こうした穏健な作品を作りたかったのだろうか、非常に不思議だった。
時代劇専門チャンネル

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