1993年に坂東玉三郎監督、吉永小百合主演で撮った作品をなぜかシネマベティで今週だけ上映すると言うので、見に行く。
以前から玉三郎は、歌舞伎ではなく新派だと思ってきたが、これは完全に新派の世界。
薬問屋の男永島敏行の手で、前借を返して1本になった吉永だが、岡崎の実家に戻ると父が病気で、再び洲崎の遊郭「大八幡」で「楓」として働くことになる。
ともかく台詞も動作もスローテンポで、まるで昭和20年代の日本映画のようだ。
1950年代に市川崑が猛スピードで台詞を言わせるようになってから、日本映画のテンポは急速度になったが、それ以前はあんなものだったことを思い出す。
吉永が、急死した前の旦那との間の子を世話してくれるのが佐々木すみ江、洲崎の遊郭の遣り手婆が樹木希林と、つい最近に亡くなられた女優。
こういう映画を見るとあらためて樹木希林の演技が上手いことが分かる。
永島敏行は、吉永に入れあげて店も他人に渡り、生活も行き詰って部屋で首つり自殺してしまう。
新聞は「毒婦」と書きたて、吉永も一時は酒浸りになる。
そこに米屋の安井昌二が現れて、見受けしてくれ、小料理屋も持たせてくれる。
そして、7、8年後、二代目の楓(片岡京子)と樹木の前に吉永が来る。酔客の長門弘之らと屋形船で深川から洲崎に来たというのだ。
幸福に暮らしていることが語られて終わり、13夜の月が川辺を照らしていた。
原作の永井荷風のを新派用に久保田万太郎が脚色したもので、もっと不幸な話らしいが、これはこれで良いと思う。
ただ、洲崎の土手と遊郭は千葉の八日市場海岸で撮ったそうで、江戸湾の静かな波ではなく、太平洋の荒波だったことが大変に気になった。
木村丈夫の美術はやはりすごい。モノクロであることが映画の必然になっている。
シネマベティ