1929年に作られた溝口健二の監督作品、原作は菊池寛の小説である。元は1時間以上あったらしいが、検閲等で残っているのは20分くらい。出ているはずの入江たか子の映像はない。
話は、きわめて図式的で、裕福な家の息子一木礼三は、テニスが趣味で、そのコートの下に住む貧しい家の娘の夏川静江に一目ぼれしてしまうが、彼女は突然いなくなる。
彼は、信託銀行に就職するが、その歓迎会で、芸者になった夏川に再会する。彼女は家の犠牲で身を売ったのである。
彼女には、一木の父親高木永二も気に入っていて水揚げしようとしているが、彼女が持っていた指輪から、彼女が彼が密かに芸者に産ませた女であることが分かる。
つまり、一木と夏川は兄妹であり、一木は、夏川を友人に譲って自分は横浜からアメリカに旅立ってゆく。
要は、階級的対立を描いていて、時代に合った映画になっいるのだが、それよりも愛し合った恋人同士が実は兄妹で、近親相姦になるというのは、歌舞伎の世話物によくある筋で、その意味ではこの話は、東京というよりも、江戸的だと思える。
昭和4年で、関東大震災の被害から復興した、モダン都市東京の姿は貴重な映像で、これはその15年後には東京大空襲でなくなってしまうのだから。
衛星劇場