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Channel: 指田文夫の「さすらい日乗」
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『メアリーの総て』

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怪奇小説の元祖『フランケンシュタイン』を書いたメアリー・シェリーの伝記映画を一言でいえば、ビクトリアン・コンプロマイズ、ビクトリア的妥協の作品となるだろう。

19世紀のイギリスは、海外の植民地経営と産業革命の進行で空前の繁栄を迎え、また科学や進歩的思想が生まれるなど、文化も発展した時代だったが、総体的には「妥協」的で偽善に満ちた時代だった。

大学の英文学史の授業で唯一覚えているのが、このビクトリアン・コンプロマイズ、「ビクトリア的妥協」というフレーズで、この映画の男たちは皆この言うこととすることが異なる、ビクトリア的妥協そのもののような連中である。

進歩的思想家ウィリアム・ゴドウインの娘のメアリーは、父のところで学んでいた詩人P・B・シェリーと恋に落ち、なんと16歳で家出して彼と同棲する。

この時、進歩的思想家だった父は、日頃の言動に反して、二人の恋に反対するが、16歳では無理もないところだろう。

              

シェリーはもてもての詩人で、詩人バイロン卿とも知り合いで、メアリーが家出した時、一緒に出てきた義妹のクレアは、バイロンに一目惚れして妊娠することになる。

バイロンからの誘いで、シェリーとメアリー、そしてクレアは、彼が住むスイスの邸宅に移り住む。

そこには、バイロンの従医ジョン・ポリドリもいて、5人の奇妙な生活が始まる。

その中で、怪奇物語を創作するゲームがあり、ポリドリとシェリーは、なにかに憑りつかれたように、それぞれが怪奇小説を書き始める。

バイロンのクレアへの裏切りによって、シェリーとメアリーはイギリスに戻り、メアリーは『フランケンシュタイン』を書き上げる。

そこには、彼女のシェリーや父親への想い、落胆、批評が込められていた傑作だった。

彼女は、出版社に持ち込むが、女性が小説を書くこと自体が普通ではなく、しかも怪奇小説なので出版は難航するが、匿名でシェリーの序文付きでやっと500部が出されただけだった。

最後、出版記念パーティーで、シェリーは本当の作者はメアリーであることを明かし、そこで父とも和解できる。

この映画が優れているのは、わざと画面を非常に暗くしていることで、当時は電球がなく、せいぜいロウソクの灯だったので、室内が暗いのは当然なのだ。

日本の大河ドラマが、夜でも煌々と室内が明るくて俳優の顔がきちんと見えるのは著しく不自然なのだ。

また、ポリドリの小説『吸血鬼』も、バイロンの名で出されて好評を得たそうだが、彼は後にはバイロンとも不仲になり自殺したとのこと。

若葉町シネマベティ

 


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