フィルムセンターの新年は、ソニーピクチャーズ特集で、『戦場にかける橋』を見る。
これを見るのは3度目で、最初は、私の一番上の姉が1958年に結婚し、その新居に私の兄などと遊びに行ったとき、白楽の映画館に連れて行ってくれた。
超満員で私はどうにか椅子に座って見たが、最期に機関車が爆破された橋から落下すること以外何も憶えていない。
二度目は、数年前にテレビで、見たがあまり強い記憶にない。
今回見て、これはすごい台詞劇で、明らかに反戦映画であると思った。
ビルマの山中の収容所にイギリス人捕虜が連れられて来て、クワイ川の架橋作業に従事させられる。このコーラスは『クワイ川マーチ』として日本でも大ヒット曲だった。
収容所長は早川雪州で、典型的な日本軍人を演じるが、描き方はそうひどくない。日本、イギリスへの描写は結構公平である。
それは、脚本のカール・フォアマンが、赤狩りに掛り、ハリウッドからイギリスに移った者だからだろう。
最初、イギリス人捕虜で、将校を労役に従事させるか否かで、早川との対立がある。ジュネーブ条約では、負傷者と将校は労役除外なのだ。
当初、イギリス人捕虜らは、このバンコクとラングーンを結ぶ鉄道の完成は日本軍を助けるものなのでサボタージュする意識もあった。
だが、捕虜代表のアレック・ギネスは、自分たちの手で橋を完成することが、自分たちの意欲向上にも繋がるとして、橋の設置場所の変更や設計変更をして建設作業に邁進させる。
映画の前半は、この収容所でのドラマが中心に進む。このくだりはすごい台詞劇であることに感心した。
後半は、戦場から脱出してイギリス軍に助けられたアメリカ人ウイリアム・ホールデンらによる橋の爆破計画になる。
現地の人間の協力を得て現場に行く細かい経緯があるが、最初の列車が通過する時、彼らが仕掛けた爆弾が破裂して橋は崩れ、蒸気機関車も川に落下する。
この爆破の経緯も細かく、一度は爆弾が見つかり、日本側にいるイギリス人が爆弾を除去しようとし、格闘になり、爆破側は殺されるが、除去側のイギリス人が死ぬとき倒れてダイナマイトに電気を点火するテコの上に乗って押してしまい爆破になるという皮肉。
つまり、戦争には勝者も敗者もないという意味である。
最初と最後は空を飛ぶ鳥の姿であり、人間の行為の虚しさを表現しているのだと思う。
撮影は、セイロン、今のスリランカで行われたそうだ。
監督のデビット・リーンは、非常に興味深い人で、このビルマの他、『アラビアのローレンス』ではアラブを、『ドクトル・ジバコ』ではロシアを、『ライアンの娘』ではアイルランドと、西欧以外を題材としている。
イギリスには、こうした人間がいるもので、日本に来て『怪談』などを書いたラフカディオ・ハーンもそうで、彼は来日の前に、ギリシャやカリブ海に行っていて、その非西欧的な文化を称賛している。その延長線上に日本文化への共感があったのだと思う。
デビット・リーンは、1950年代に日本の女優岸恵子にご執心だったそうで、それは上手くいかず、岸は結局フランス人のイブ・シャンピと結婚してしまう。
一方、デビット・リーンはインド人女性と結婚したそうで、彼のオリエンタル趣味は一貫していることになる。