映画館で見るのは、20年ぶりくらいで、やはり凄いと思った。だが、調べるとキネマ旬報ベストテンでは、なんと4位。
1位は、『砂の女』、2位『怪談』、3位『香華』の次である。
『砂の女』の実験性、『香華』の木下恵介の名声は仕方ないとしても、明らかに失敗作の『怪談』の2位はひどいと私は思う。
話は、強盗の露口茂に強姦された主婦の春川ますみが、夫の西村晃に対して次第に太々しく、強くなっていくという今村昌平好みの女性の強さを主題とする作品。
藤原審爾の原作は明大前だったそうだが、仙台に代えられている。
西村は、元は大地主の次男で、彼は東北大図書館の職員だが、兄の北村和夫は地方議員のようだ。
これは全部シンクロ録音だったそうで、俳優の演技のリアリティが素晴らしいが、姫田真作久の本を読むと、印象的なシーンでは大変なテクニックを駆使していることがわかる。
広瀬川駅の市電のシーンで見事に雪が降っているが、これは勿論人工の雪。春川ますみが堕胎するために松島に行き、露口と列車の中でのアクション・シーンも大変に工夫して撮ったものだそうだ。
それをさりげなく見せているのが、東京生まれの今村昌平の粋なところである。
脇の女優も、祖母の赤木蘭子、隣の家の主婦の北原文枝、子供の頃春川の部屋に夜這いしようとした小沢昭一、ストリップ劇場のギター弾きの殿山泰司なども適役。
図書館の同僚の近藤宏、列車の車掌の榎木兵衛など、日活の常連の連中も出ていて、当時いかに今村昌平が撮影所で期待されいたかがわかる。
この映画の欠点といえば、北林谷栄らの老婆の台詞がよくわからないことで、今では異化効果と分かるが、当時はよく理解されなかったからだと思う。黛敏郎の音楽もよくあっている。
さらに、もう一つ、時代的に見れば少し貧しすぎる感じがするが、これは本当は『にっぽん昆虫記』の大分前に脚本はできていて、『にっぽん昆虫記』の大ヒットで会社がやっと製作を許したための時代のズレである。
阿佐ヶ谷ラピュタ