今回の横浜シネマリンの溝口健二特集は基本的にデジタルだが、『西鶴一代女』だけがフィルム上映だというので見に行く。
京都のお公家さんの家に上がっていた女中のお春に、下級武士の三船敏郎が懸想して二人は隠れ家で捕まる。
三船は打ち首、田中絹代は父の菅井一郎、母松浦築栄と共に都から追放になる。
「こんな田舎住まいになったのも、お前の性!」となじる菅井。
島原に太夫として上がると、人気となるが、田舎のお大尽柳永次郎が金をばらまいて、お春を買おうとするのが面白い。
柳は矢鱈に金をばらまくが、贋金使いで捕まる。
と急に白身になってしまい、「フィルムが切れた・・・」とのことで10分くらい中断。
フィルムが切れるのは昔はよくあったことで、もっと困ったのが「次の缶がまだ来ていない・・・」という中断。
昔は、封切りなどは複数館の掛け持ちで、缶を分担して上映していたので、交通事情などで次のが来ていないと、待たされることがよくあった。
つないで上映再開すると今度は音が出ない。また、中断してやり直すと今度はきちんと上映できる。
休憩の時に受付に、
「ピントが甘い。撮影がソフトフォーカスで有名な平野好美なので、注意して焦点を中央に合わせてほしい」と言っておく。
照明は、例の藤林甲で、これまた淡い照明法で、全体に墨絵のようなややぼんやりとした画面作りなのである。
次には、松平家の当主近衛敏明の側室になり、山根壽子と殿中で人形浄瑠璃を見たりするところも凄い。
田中は無事男子を産むが、産むと「女は子を産む機械」とばかりに取り上げられてしまい、またお宿下がり。
下賜金が「たったの5両」と嘆く菅井!
一度はまじめな扇屋の宇野重吉と一緒になるが、すぐに殺されてしまい、呉服屋の主人進藤英太郎に見受けされるが、妻沢村貞子の嫉妬で家を出され、今度は手代の大泉侃とできるが店の金を使い込んでいてまた捕縛。
全体に役者が非常によく、呉服屋の番頭が志賀廼家弁慶で、豊田四郎の映画『夫婦善哉』でもケチな番頭役で、この人は本職は漫才だと思うが本当に適役である。
最後は、街娼になり、旅人から若いものへの女遊びを戒める見本にさえさせられる。
世に「鬼気迫る」と表現される演技は多いが、これでの田中絹代がまさにそうだと思う。多分彼女の演技で最高の作品だと思う。
ラストシーンは、巡礼として家々を物乞いするところに掛かる、斎藤一郎作の巡礼歌。
まことに溝口健二の最高の作品だが、ビデオではなく映画館でじっと見つめるべき作品だと思う。
やはりデジタルは音が硬く、フィルムは柔らかくて深い感じがした。
横浜シネマリン
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