『やぶにらみニッポン』と一緒に見た1964年、前田陽一の監督デビュー作品。昔横浜のシネマジャックで見たことがあり、その時はかなり感心したが、今度見てみて随分と安上がりな映画だなと思う。
1945年から、1957年の売春防止法制定による赤線の廃止までの吉原(ここでは桜原)の戦後史であるが、ほとんどの場面が松竹大船撮影所の中で撮影されている。
その意味では、城戸四郎氏が喜ぶのも当然だったと思う。
チーフ助監督が三村晴彦で、随分と作風が違うが、昔の大手撮影所は、多様な作品を作っていたので、その結果であり、それが監督の作風にも多様性を与えていたと思う。
日本の敗戦から米軍進駐対策への慰安施設建設になり、赤線復活から全盛時代、同時に赤線廃止運動の興隆になり、ついには売春防止法成立による赤線最後の日を迎えることになる。
途中で、菅原通斎が街頭で、売春防止を訴える演説をするのが笑える。この人は、「三悪追放運動」と称して売春にも反対だったのである。
当時は、昔はさんざ遊んだので、今は反対を言っているのさ、と言われたものだが。
日活の『赤線最後の日』でも「蛍の光」が歌われたと思うが、店に集う男たちが歌って最後を悲しむ。
その時、店のみならず、吉原一の売れっ子だった香山美子は死んでしまう。まるで消えゆく吉原の象徴のように。
この頃、香山美子は、吉永小百合、佐久間良子に匹敵する美人女優だったが、さして活躍しないままに結婚して引退した。
数年前に、友近というタレントの実録番組があり、母親がきれいなので、誰かと思うと、香山だったが、時は残酷なもの。
もし、香山も山田洋次映画のヒロインに選ばれていれば、倍賞千恵子のように長く松竹のスクリーンを飾ったのだがと思う。
新文芸坐