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Channel: 指田文夫の「さすらい日乗」
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『惜春』

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1967年に松竹で作られたかなり奇妙な映画。

原作と脚本は平岩弓枝で、上野の老舗の組紐屋の主人が亡くなり、その遺言状を弁護士永井智雄が子供の三姉妹、元妻の森光子、親戚一堂に読む上げるところから始まる。

三姉妹の内、新珠三千代は前妻の子で、香山美子と加賀まり子が、最後は離婚した森光子の娘。

森は、浜町の店と言っているので、そこで水商売をやっているのだろう。いずれにしても、老舗の店とは合わない下品な女を演じている。

遺言状には、「店を継ぐに相応しい者と結婚した娘に財産の総てを上げる」となっているので、三姉妹の結婚が財産争いにもなる。

新珠は、組紐作家、香山は何もせず家にいて、3日と空けずに美容院に通っているお嬢様、加賀は日本航空のスチュアデスで、現代娘。

谷崎潤一郎の『細雪』を想起させる構成で、面白いのは次女の香山が非常にとろくてゆっくりと話し、純情で何も知らない娘を演じていることだ。

1984年に市川崑が谷崎の『細雪』を映画化したとき、三女の吉永小百合を、電話に出るのもできない純情娘としたが、この映画の香山美子もまさにそうで、監督中村登の指示だろう。

店には、親戚の男で仕事のできる早川保がいて、彼は財産を目当てに長女の新珠三千代に求婚するが、色よい返事を得られない。

言わば早川は、財産目当ての卑怯な男らしいのだが、早川は真面目な感じなので、これは役が合っていない。

その内に、新珠は、京都の帯のデザインをやっている平幹二朗と知り合っい、相思相愛になる。

大阪の高島屋の専務を演じる藤岡琢也が笑わせてくれるが、この人も良い役者で、意外にもインテリだったと記憶している。

その平幹に、加賀まり子がちょっかいを出す脇筋もあるが、意外や早川保は、社員旅行の箱根の宿で次女香山の誘惑に乗せられて次女と結婚することになる。

その社員旅行もすべて森光子の差金で、加賀はそんな森光子のやり方を批難し、香山からも結婚後の二人の生活に御意見無用と言われてしまう。

この辺、森光子は、強欲でわがままで図々しい嫌な女の典型として描かれている。

新珠三千代はどうなるのか、と思うと一人の組紐作家として生きてゆき、いずれ平幹二朗と結ばれるだろうことを示唆して終わる。

監督の中村登は、東大英文科出身だが、母親は芸者で花柳界は馴染みだったそうなので、手堅く描いている。

音楽は佐藤勝だが、なかなか美しい響きを聞かせている。

それにしても香山美子は、吉永小百合に良く似ているな。ということは美人ということだが。

 

神保町シアター

次に見た、同じ中村登監督の『暖春』については、小津安二郎との関係で、ジャンルの垣根を越えて に書くのでよろしく。

 この上野の老舗も、1990年代のバブルではどうなったのか気になるところであるが。

 


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