1958年に新東宝から公開された映画だが、元は1949年6月に東宝から公開された『びっくり5人男』を美空ひばりの主演作のように見せて再編集して公開された問題作。
新東宝は、この手の改作が得意で、およそ著作権法無視だが、溝口健二の名作『西鶴一代女』も改作されて再公開されていて、このときは監督協会が新東宝に抗議したそうだ。
だが、新東宝にみならず、大松竹や大東宝も、改作・再編集は多くやっているのだ。
松竹の看板商品というべき『愛染桂』ですら、完全版はなく、今あるのは総集編と言うインチキ版のみなのだ。『愛染桂』は、全部で4部あるのだが、現存の版では、1,2部と3部を再編集したもので、田中絹代が歌舞伎座で歌って終りだが、本当は京都に逃げた彼女を上原謙が追ってきたり、最後は中国に行ってしまうのもあったのだそうだ。
また、東宝の榎本健一の代表作の『チャッキリ金太』は、スリの金太と目明しの追っかけで、江戸から京都に行くが、いつの間にか戻って来て、彰義隊と一緒になっていて途中がないのだ。
こうしたことはどうして起こったのか。もちろん、最初の公開時からいい加減だったわけではない。
それが、1945年の敗戦後、大変な映画ブームで、公開すればなんでも人が映画館に来た。
ところが、当時は電力や物資不足、さらにスタッフ、キャストも戦地から戻って来ない状況で、新作が作れなかった。そこでやったのが、戦前、戦中の名作の改作である。あるいは、戦時中は思想的に非公開とされた作品の公開などで、東宝系で作られた『煉瓦女工』が、松竹で公開されたりしている。
当時の事情を考えれば、再編集も仕方なかったろう。だが、その時に残りのネガを切って捨ててしまったのは、ひどいと言うしかないだろう。
さて、この『ラッキー百万円娘』は、美空ひばりとしては2本目なのだが、1本目の『のど自慢狂時代』が短縮版のみで、そこではひばりはカットされているので、現存するものでは最古参となる。
そして、ここでは二つ興味深いことがある。
一つは、1949年5月時点では、美空ひばりは、その他大勢の歌手だったことで、野外ステージでソロを取る女性シンガーは、野上千鶴子なことだ。
もう一つは、この神奈川公園の野外ステージの奥に見える「東日本博覧会」のパビリオンは、博覧会終了後は、横浜市役所として1958年まで使用された建物が見えることだ。
この二つが見られることで、この悪質改作映画は、意義のあるものになっている。
衛星劇場