「東宝の『人間の条件』」というと、「東宝に『人間の条件』なんてないだろう」とくるだろう。
その通りで、映画ではなく、演劇で、日比谷の芸術座で公演されたのだ。
1957年で、主演は平田明彦、その妻三千子は司葉子、脚本は小幡欣治、演出菊田一夫・久保昭三郎、音楽芥川也寸志で、9月から12月まで行われた。
平田明彦と司葉子なので、映画の大スぺクタル作品とは異なり、たぶん純愛ものだったと思うが、これの方が原作に近いと思う。
さて、この久保昭三郎は誰かと思われるだろうが、当時新劇団の一つだった葦の方で、脚本の小幡欣治も、実は葦からの委託で脚本化をすすめていた人なのだ。
この頃、小幡さんは、原作者五味川純平氏にお会いしていているが極貧で、奥さんがミシンの仕事で生活を支えていたそうだ。
小説がヒットしたので、東宝、そして菊田一夫が劇化を企図し、五味川氏と交渉して、劇化権を取る。
そこで、当時、葦には水城蘭子、真木恭介らの俳優がいたのだが、彼らの出演と演出の協同を条件に五味川は、劇化を許可する。
なぜなら、もともと五味川は、葦に劇化権を与えていたからだ。
このとき、東宝から小幡欣治氏に払われた脚本料は、1万円だったとのこと。
そして、これを契機に、小幡欣治は、東宝で作・演出のエースとなり、大活躍することになる。
また、この葦には、演芸評論家の矢野誠一氏もいて、端役で出たそうだ。