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Channel: 指田文夫の「さすらい日乗」
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渡辺保さんが、俳優の鳴海四郎さんを見たのは『昭和演劇大全集』にある

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鳴海四郎氏が、文学座の俳優で、慶応高校の教師だったことを書いたが、その出典を調べると、渡辺保さんと高泉淳子の『昭和演劇大全集』の225ページにあった。

                 

これは、田中千禾夫の『マリアの首』を話した時の冒頭に出てくる。

渡辺さんが見たのは、田中の戦前の名作『おふくろ』で、このとき鳴海氏は、息子を演じたそうで、1951年のことなので、慶応高校が横浜市日吉に移転したからのことになる。

『おふくろ』は、戦前に田中が岸田國士の下にいた時に書いたリアリズム劇で、4人しか出てこないので、高校などのアマチュア演劇でも良く上演された演目だった。

だが、戦後田中は、劇の作風を一変させて、名作『マリアの首』を1959年に劇団新人会の公演用に書く。

これは、私の考えでは、『マリアの首』は、戦後日本演劇史に残る最高の名作だと思う。

この劇がすごいのは、日常的な会話の中に、哲学的、観念的な語彙がどんどん入ってくるところである。ヤクザや娼婦が哲学を語るのだから本当にすごいのだ。

だから、役者は台詞と演技を自然なところから、一挙に抽象的、観念的な場所に飛躍させねばならない。

この劇の飛躍は、その後の1960年代の唐十郎のシュールリアリズム演劇というべき台詞術に大きなヒントと影響を与えたと思う。

それは、現在の野田秀樹にまで及んでいるのだ、というのが私の考えである。


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