高校から大学の頃、私の周辺では」石原裕次郎は、もう太ってダメ」という評価が普通だった。
だが、1966年7月、馬場日活で見た舛田利雄監督の『夜のバラを消せ』は、非 常に良くて、それを早稲田の映研の連中に言うと大きく笑われた、「今更裕次郎なんて」と。
この映画は、由美かおるが、映画に出た最初であり、彼女が孤児たちと住んでいる船での自由な感じも大変yかったのだ。そうした自由な雰囲気を、裕次郎は全体として支えているように見えた。
そして、石原裕次郎をタフガイとして、単純なアクションスターとして捉えるのは、私は間違っていると思う。彼は、意外なことに福永武彦の『草の花』を愛好する文学青年であり、物事を仔細に見ることができる人なのだ。そして、多くの映画で、彼は相手役の女優に対して、「受けの演技」をして彼女たちを立てている。それに最初に気づいたのは、蔵原惟繕監督の名作『憎いあンちくしょう』で、そこでは完全に浅丘ルリ子を立てる演技をしている。先日見た『帰らざる波止場』でも同様で、ここでも浅丘ルリ子を立てる芝居を見せている。
そのように、演技を自然に計算で来たところが、石原裕次郎が男女共に、人気があった所以だと思うのだ。つまり、演技が自然なので、これは日活の助監督の多くが、松竹大船から来たことによっていると思う。松竹の演技は、新派以来の自然なのだから。
ここで、私なりの石原裕次郎ベスト10を上げる。
1 狂った果実 監督中平康
2 俺は待ってるぜ 監督蔵原惟繕
3 陽の当たる坂道 監督田坂具隆
4 紅の翼 監督中平康
5 あいつと私 監督中平康
6 零戦黒雲一家 監督舛田利雄
7 憎いあンちくしょう 監督蔵原惟繕
8 赤いハンカチ 監督舛田利雄
9 帰らざる波止場 監督江崎実生
10 逃亡列車 監督江崎実生
本当は、『夜のバラを消せ』も入れたいところだが、これはやや小品だったので除く。この時の併映は、斎藤武市監督の『骨まで愛して』で、どちらかと言えば、こちらの方がメインだった。