先週、フランソワ・トリュフォーの映画を見て、少し感じるところがあった。
それは、初めて見た『夜霧の恋人たち』である。
ここには、夜霧はどこにも出てこないのだ。恋人は、一応昔からの友達で、結婚してしまう主人公はいるが。まるで、小津安二郎の『秋刀魚の味』みたいなものなのだ。『秋刀魚の味』が公開されたとき、どこにも秋刀魚は出てきませんね、という反応があったそうだ。
そして、思ったのは、フランソワ・トリュフォーは、結構多彩な傾向の作品を作っているんだなあとのことだ。
サスペンスやメロドラマ、『アデルの恋の物語』のような、実話に基づくものなど、いろいろある。
その意味では、日本のヌーベルバーグの松竹の篠田昌浩にに一番似ているのかもしれない。
篠田も、喜劇、メロドラマ、時代劇、『美しさと哀しみと』のような相当に前衛的な作品も作っている。
1984年にトリュフォーが亡くなった時、私は横浜市港湾局のポートセールス団を引率してニューヨークにいた。
トリュフォーの死は、アメリカの新聞にもかなり大きく出ていた。
それをニューヨークの日本人相手のバーで、元アングラ女優という女の子に言うと、大変に驚いていた。
その程度には、彼は日本でも有名だったのだ。
だが、その新聞には、リチャード・ブローティガンの死の記事も出ていたのだが、ほとんどそのことを語る者はいなかった。