『しあわせの一番星』は、浅田美代子の主演で、言わば演技の素人の彼女が結構様になっている。
これは、松竹の演出術によるもので、それは演技をさせないと言うことなのだ。
ドラマの中心部分は、周りのベテランたちにやってもらい、彼女は、掃除、雑巾がけ、盥での洗濯などの動作だけを見せて、ほとんど演技をさせていないのである。
これは、戦前の島津保次郎からはじまる松竹の、日常的で自然な芝居の延長線上にあるもので、それはフランソワ・トリュフォーを驚嘆させた中平康監督、石原裕次郎主演の『狂った果実』にまで及ぶものなのだ。
これに対抗するのが、日活系の、内田吐夢、溝口健二、そして黒澤明に代表される、演劇的で、人生論的「熱い演技」で、この二つの系列が、日本映画の演出術の流れだと私は思う。
それにしても、完璧な素人だった浅田美代子の主演をなんとか見せるようにした、監督の山根成之の手腕は大したものだと言えるだろう。