トロッコというと、地方の列車のように思えるが、東京大田区の池上でも、トロッコがあったことがある。
それは、池上の本門寺の崖のところに大田区民会館を作った時のことで、本門寺脇の崖から、呑川までトロッコの軌道が引かれて、土砂を運搬していた。
当時は、トラックがまだ普及していなくて、工事での土砂の運搬にはトロッコが使用されていたのだと思う。
そうした図は、成瀬己喜男監督の大映映画『あにいもうと』で、兄で肉体労働者の森雅之が働く、多摩川の土手での作業用のトロッコが出てくる。
大田区民会館は、大ホールの他、結婚式場、会議室などもあり、そして図書館もある総合的な文化施設だった。ここには、豪華な詩集などもあり、埴谷雄高なども、ここで読んだのだ。
また、大ホールでは、定期的に映画会をやっていて、ここでは『黄色いカラス』のような子供向けの映画もやっていたが、溝口健二監督の『近松物語』も上映していたのだ。
もっとも、その時は、ただの暗い映画だなとしか感じていなかった。ところが、30代になり、銀座の並木座で『近松物語』を見ていて、最後の長谷川一夫と香川京子が裸馬に乗せられて市中引き回しの場面にきて、
「区民会館で見た映画は、これだ!」と思ったのだ。
意外にも良い映画をただで上映していたのだ。