日本シリーズが終わって昼も夜も見るものもないので、大好きな『陸軍中野学校』シリーズを2本見る。
これは、どちらも英米のスパイ網との対立を描くもので、「ゾルゲ事件」をヒントにしていると思う。
脚本はどちらも長谷川公之で、監督も井上昭である。
主人公の椎名次郎は、市川雷蔵で、相手役は4作目では高田美和、5作目では織田利枝子という女優である。
また、5作目ではスパイ側の女性医師が小山明子で、これは好演である。
二人が料亭で会っている場面で、雷蔵は半ば自分の身分と役目を打ち明け、
「あなたとあっているときにも、何を考えているのか、ハラの中を探っている。悲しい運命です」というが、
小山は「平和な時にお会いしたかったですわ」と二人はキスする。
この頃、小山明子と大島渚の創造社は大変だったので、彼女は大映作品に出ている。
それは、大島渚監督、山本富士子主演で、スタンダールの『カストロの尼』を原作とした、『尼と野武士』が大映京都で製作される予定だった。ところが、山本富士子が大映を辞めたので、これが中止になり、その穴埋めとして小山明子が大映に出たのだそうだ。
『密命』は、筋としては、やや不十分であり、『開戦前夜』の方が、筋書きが明確である。
『密命』では、連合国側のスパイのキャッツアイが、実は日本のドイツ大使館の高官として情報活動をやっているとなっている。これは、ゾルゲ事件で、ゾルゲがドイツ大使オットーに信頼されていて、そこからゾルゲ一味に情報が漏洩したことがヒントになっている。
『開戦前夜』では、英米派の学者清水将夫のところに、会いに来る陸軍高官の情報が、住み込み看護婦、薬屋、喫茶店、そして画家の船越英二を経て、セント・ジョセフ病院(聖路加病院のことだと思うが)の地下に巣喰う組織に集約される形になっている。
この方が、1941年12月の日米戦の開戦前夜の世相を反映して、軍隊の行進や駅での傷痍軍人の募金など町の情景描写が細かいのも優れていると思える。
ただ、このシリーズは第1作目は大映東京の増村保造監督で作られたが、2作目からは京都の太秦で製作されるという事情があり、町の風景は東京とは少し違うと感じられるところがある。
そして、太平洋戦争開始で、このシリーズは終了した。
題材はまだあったはずだが、大映京都撮影所には、市川雷蔵の現代劇を嫌う人達がいたとのことで、シリーズが終了したのは、誠に残念なことだったと思う。
池野成の荘重な音楽が良い。