CSで『剣客商売・その日の三冬』を見る。
三冬は、旗本の娘にかしづいている下男の本田博太郎に会う。二人は、昔ある道場の知合いで、本田は足軽ながら強い男だったが、顔に痘痕がある醜い男だった。彼は、その若い娘を浅草での災いから守ってあげたので、ある旗本の下男として雇われていたのだ。そして、その娘は、大身の旗本への嫁入りが決まるが、実は好きな男がいて、廃寺に会いに行くと、その遊男に男にやられそうになる。彼女は、ただ会うだけだったのが、男は最初からものにするつもりだったのだ。すると本田は、娘を守るが、男を傷つけてしまう。そこで、父親の旗本は、本田に「この書状を持って男に家に詫びに行け」と言い、本田は、その家に行くと、「存分に処分されたし」と書いてあり、、旗本の家の連中との剣になるが、本田は強く、町に逃げて、町娘を誘拐して農家に飛び込む。ここで、三冬は、その場に来る。
「これは『下郎の首』と『七人の侍』だな」と思う。
『七人の侍』で、志村喬が、子供を誘拐して農家に立てこもる話は有名なので、伊藤大輔の『下郎の首』を以下に書く。
1955年に伊藤大輔が、新東宝で作った時代劇で、主演は田崎潤、片山明彦、嵯峨三智子、小沢栄太郎。
囲碁好きの武士高田稔は、碁の相手を探しての温泉めぐりをしていたが、ある日武道師範の男・小沢栄太郎と碁で喧嘩になり、切り殺されてしまう。息子の片山明彦と下男の田崎潤は、敵討ちのため小沢を探し諸国をめぐる。長旅で生活は窮迫し、片山は体も損ない歩けなくなり、田崎と川の土手の小屋に住み、田崎が槍踊りを大道で行ってその日の稼ぎを得ている始末。この小屋が、川の土手にあるというのは、伊藤大輔や内田吐夢の得意の世界で、差別を描いている。ある日、雨宿りしたとき、田崎は囲い者の女嵯峨三智子と知り合い、嵯峨に惚れられてしまう。嵯峨に誘われて家にいたとき、旦那が戻って来る。その男はなんと主人の高田を殺害した小沢だったが、田崎は小沢の顔を知らなかったのだが、戦っている間に小沢の特徴である黒子の数をかぞえて、この男が仇だと分かる。だが、剣術指南の小沢栄太郎に対し、死に物狂いで戦う田崎潤は、なんと小沢に勝ってしまう。剣道場の面子を失った弟子たちは、片山に下郎の田崎潤の首を差し出せと書状を出してくる。
すると片山は、卑怯にも文字が読めないことを幸いに、田崎の処分に異議ない旨の返事を田崎に持たせて、決闘の場所に行かせる。そして、田崎は、弟子の武士たちに河原で惨殺されてしまう。文盲の田崎が「手紙を読んでくれ」と野次馬に頼むところが悲惨である。逃げる爺さんがいて、高堂国典なのだが、「わしも読めないのだ」と笑える。最後、自らの卑怯を恥じて片山は、悔い改めて引返して来るが、勿論事態は変わらない。
伊藤大輔は、田崎潤の演技に大満足だったそうだが、田崎は文盲で単純な下郎を適役で演じている。
下郎の立場の非人間性に込められた伊藤の体制批判である。
最後、三冬の説得に応じ、本田は娘を離し、切腹して終わる。
この日の脚本は、古田求で、監督は井上昭のベテランなので、二人ともよく知っていたのだと思う。
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