1941年6月に公開された東宝映画、脚本は岸松雄、監督滝澤英輔だが、原作秘田余四郎、潤色高田保となっている。
この話は、外国映画の字幕で有名だった秘田氏の原作を、新国劇が高田の脚色で劇化し、それを東宝が映画化したものである。
舞台は、東京の佃島で、露天商、いわゆるテキ屋の話、高田稔と御橋公の二つの組がある。
御橋の家に、傷痍軍人が来て、戦死した上司で御橋の息子の霊を拝ませてくれと来る。
「どのような死に際だったか」と聞くが、もちろん立派で、天皇陛下万歳を叫んで死んだと言う。
佃島では戦時中と言っても、まだ日中戦争で、太平洋戦争の前であり、いつものように夜店が開かれている。
易者、コリントゲーム、バナナの叩き売りなど、戦後の私たちもなじみの店が開かれ、庶民で賑わっている。
監督の滝澤は、鳴滝組・梶原金八の一員であり、庶民の姿をきめ細かく描いている。
主役が高田稔の配下の江川宇礼雄で、彼はおでん屋のおひさ山田五十鈴と恋仲で、露天では万年筆を売っている。
工場が火事になった焼け残り品の泥の山に漬けた万年筆ではなく、一応紙の箱に入れた万年筆。
彼は、山田の店のカウンターで、御橋の組員・清川壮司と飲んでいて、若親分が戦死して中尉になったと聞き、
「日本軍では、曹長がいきなり中尉になるものか、少尉だ」と言い張り、清川と喧嘩になる。
この辺は、「蒋介石の野郎とか支那軍じゃあるまいし」など、差別語の連発で、当時の日本の感じがよくわかる。
ついには組同士の出入りになりそうになる。
だが、葬式の日、高田は、組員全員に国民服を着させ、住吉神社に集合した後、全員整列し葬儀に来る。
そして江川宇礼雄に、式場に飾られている戒名を読ませる。
なんと中尉だった。二階級どころか三階級特進というわけだった。
そして、高田と御橋、二つの組の全員は和解する。
ご町内の老人の横山運平は言う。
「日本人なら最後は話せば分かる」
だが、4年後、この映画に出てきた下町の庶民は、大空襲で死んでしまうのか。
安倍晋三くん、やはり戦争は間違いですよ。
現在では相当に公開、放映することが難しい作品だが、結構良く出来た映画だった。
私は、滝澤英輔は好きな監督の一人なのである。
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