井伏鱒二の小説『集金旅行』は、1957年に松竹で映画化されていて、以前見て面白かったが、題材的に新派あたりのもので、民芸のものではないと思ったが見に行く。
会場は、都内最低劇場の俳優座劇場。
荻窪のアパートの持ち主が急死し、滞納していた地代分を請求され、部屋代を滞納していた者から部屋代の取り立てに旅行に出た、小説家・西川明とバーの女給・樫山文枝の旅行。
まず、岩国に行くが、面白いのは九州の門司と福岡の奥の人間の話。
門司では、医者と見合いをさせられて、そこで100円の滞納分と、樫山は昔の男から慰謝料1000円を得る。
樫山は、各地にいる昔の男から慰謝料を取るのが目的だったのだ。
そして、広島に戻ると請求の相手の母の葬式が行なわれているところで、葬式の香典を袋毎もらう羽目に。
井伏の作品は、ユーモアがあると言われるが、ここはブラック・ユ-モアである。
そして、荻窪のアパートの仕事場の将棋の相手として太宰治こと津島修治が出てくる。
意外にも非常に面白かったが、その理由は、この劇が2013年以来202回も上演されてきたからだと思う。
歌舞伎の名作も、何度も何年にもわたり上演され、工夫されてきたので名作になったのである。
この多数の上演をおめでとうと言っておく。
だが、もう1回言う。ここの設備は本当にひどい。
帰りも、私と同じ高齢者が、苦労して手すりを取ってやっと階段を降りていた。
一つだけ加えれば、1階のロビーから階段への手すりは、前はなかったもので、私が劇団と港区長に手紙を書いて付けられたものなのだ。
一応、書いておく。
前の手すりがない方が、女性に手を取られて昇るので、その方が良かったというご意見もあるようだが。