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Channel: 指田文夫の「さすらい日乗」
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『マニラ瑞穂記』

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この明治時代のフィリピンを舞台にした劇を見ていて感じたのは、フィリピンの遠さであった。

多分、今の日本にとってアジアで一番遠い国はフィリプピンではないだろうか。中国や韓国は、好悪はともかくとして、極めて関心が強い。

だが、フィリピンについては、多くの日本人はほとんど関心がないのではないかと思う。

だが、かつてはそうではなかった。この秋元松代作の劇が描く、明治31年のフィリピンのスペインからの独立運動に際しての、日本人達の参画は例外だろうが。

       

江戸末期からのからゆきさんを初め、ルソン島のベンゲット道路建設の際の日本人労働者の出稼ぎは、織田作之助原作の小説『わが町』で描かれ、川島雄三監督、辰巳柳太郎の主演で日活映画にもなっている。

後にそれは森繁久彌の芝居『佐渡島多吉の生涯』にもなっているほど、日本人にはフィリピンは南進論のエリアであり、大東亜共栄圏の一部として見近な存在だった。
あるいは、音楽的に見ても、コンデ兄弟を初め戦前から日本のジャズ・バンドにはフィリピン人が活躍し、それは女性シンガーのマリーンにまで続いている。
だが、1990年代のワールドミュージック・ブームでも、フィリピンは埒外だった。

理由は、基本的にアメリカン・ミュージックで、独自性がないからである。

 

この秋元の劇で描かれるのは、マニラの日本領事館に逃げ込んできた男女で、男はフィリピンの独立を助けようとする志士風の若者と女衒の秋岡伝次郎。女は、彼によって売られてきた女性たち。

一時は、アギナルドなどの独立軍が優勢となるが、最後はフィリピンはアメリカに売り渡される。

ここに見られるのは、男たちは政治や運動に関わるが、女はいつもそれらに無関係に時代や権力に流されていくという、、森本薫の『女の一生』にも似た構造である。

秋元松代は、優れた劇作家だが、1964年のここでは、まだ未成熟なかんじがあり、相当にゴタゴタしていた。

演出は栗山民也、役者では秋岡の千葉哲也、領事高崎の山西惇、元からゆきさんの老女シズの稲川美代子以外は、新国立劇場の研修修了の若手俳優たち。

終わった後、いつもの通りにバスで渋谷に出て、宮益坂のエルスールに行き、原田尊志さんと話す。

15年以上、エルスールで世界中のポピュラー音楽のレコードを扱っているが、「フィリピンのレコードはありませんか」と聞かれたことは一度もないそうだ。

フィリピンは、それほど遠いのである。以前、私が住んでいたマンションにも奥さんがフィリピン人の夫婦がいるなど、横浜にもフィリピン系の人は非常に多いのだが。

 

新国立劇場

 


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