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Channel: 指田文夫の「さすらい日乗」
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『ノマドランド』

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ノマドとは、文化人類学では、「遊動民」と言われ、農耕、牧畜以前の狩猟採集活動をしていた人類の姿だとされている。この期間は、約500万年あったとされ、農耕と牧畜は西アジアで約1万年前頃に始まったので、人類の歴史のほとんどは、実は遊動民の時代だったのである。以前、放送大学で京都大学の木村先生が説明されていたのは、以下のようなものだ。
つまり、人類の99.8%は、狩猟採集民の時代だったということになる。もっとも、今ではアフリカ、ニューギニア、アマゾンなどに数万人が住んでいて、しかも政府の方針で次第に定住生活に変えられているようだ。そこには、定住せず遊動しているのは、得体のしれない連中だという想いがあるらしいが、われわれ農耕民の末裔から見れば、秘かに憧れを感じるものだ。実際に、木村先生もザイール(コンゴ民主共和国)で、BAKAという狩猟採集民のある集団を調査したが、3か月で16か所を移動し、150キロもの距離を移動したそうだ。彼らの移動の理由は簡単で、食物がなくなるからだが、中には格別の理由もなく移動することもあるとのこと。そして、彼らは他の家族との頻繁な離合集散を繰り返すそうだ。ケンカやいざこざはかなりあり、すると彼らはすぐに分かれてしまい、そして数か月後にまた再会したりするそうだ。要は、気が合わなくなれば別れればよいという、定住民とは全く別の価値観で生きているのである。それゆえに、彼らには呪いのようなものはないが、定住したアフリカの元狩猟採集民では、「呪い」がしばしば見られるとのことである。それは、土地に定住し、濃密な人間関係が生まれ、食物の収穫量などで、階層化が生まれた農耕社会では、「呪い」、またその逆の「祈り」などができてくるのだ。その辺から宗教も生まれてくるのだろう。いずれにしても、このノマド、非定住民という考え方は、非常に興味深い。
     
このアメリカ映画では、夫に病気で死なれた主人公のファーンは、ノマドになり、キャンピングカーで、地方を移動する。時々の場で、働き、そこで得た給与で、さらに別の場所に行く。要は、自由な移動と人間関係を結ぶのである。最後、一人の心やさしそうな男から、結婚を申し込まれるが、やはりそこを出て別の町に行く。子供の頃住んでいたエンパイアという町で、廃墟のようになっている。ファーン役の女優は、かつての女優ジェーン・フォンダを思わせるが、ジェーンが20世紀を代表する女優なら、このフランシス・マクドーマンドは、21世紀を代表する女優になるのだろうか。出てくる多くの俳優の演技がきわめて自然で、抑えたものであることが大変に良い。音楽は、地方を放浪するので、当然にもカントリーとミニマル・ミュージックのような感じで、よく合っていた。アメリカと言う、世界の最先端が、昔の遊動民に戻ると言うのだろうか。監督は、中国系とのことで、アメリカの最下層の労働も出ていると思う。上大岡東宝シネマズ

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