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Channel: 指田文夫の「さすらい日乗」
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『悪徳』

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1957年に「日映騒動」というのがあった。これは、大映の専務だった曽我正史が、大映に反旗を翻し、京王電鉄等の出資で、映画製作会社を作ろうとしたもの。「第七系統ができる」とのことで大騒ぎになり、野坂昭如も入社が決まっていたそうだ。だが、当然にも永田雅一の「政治力」で、ご破算になり、三本の作品を残して日映という製作プロダクションで終わる。ただ、この3作目では、配給は大映になっているので、永田とは妥協が成立していたのだと思う。1作目の『怒りの孤島』は、松竹の配給である。後に、曽我は、洋画配給の大映第一フィルムの社長になる。永田と、その周囲の者との愛憎劇は、非常に不思議である。
             話は、銀座の金融界に、若手として参入しようとする木村功の行動を描くもので、彼は、佐分利信社長の下で、銀座のバーをマダムの福田妙子から詐取して、佐分利に認められる。福田は、福田恆存の妹のはずで、よく似ている。次に、恋人のバスの車掌水谷良重に頼まれて、彼女の父親でミシン会社の経理課長織田政雄の手形割引を手伝うが、佐分利の子分の悪役の清水一郎、ボクシングジムのボス嵯峨善兵衛らによってパクられてしまう。清水は、松竹のサイレント時代からのスターで、小津安二郎の『晩春』では、原節子が笠智衆と一緒に行く銀座の寿司屋の板前役をやっている。今度は、手形のサルベージを頼まれるが、上手く行かず、水谷の金もすべて取られてしまう。佐分利の妻は、大塚道子で、元華族・三橋公の娘である。三橋は、斜陽族で、新規事業で失敗ばかりしているが、それを補填するのは、佐分利の役目。おっかないおばさん役が多い大塚道子だが、本当は美人で、ここでは元華族のお姫様を上手く演じているのは、さすが。手形を詐取された織田は、自殺に見せかけて殺されてしまう。水谷良重は、復讐に、木村が大塚を誘惑してできていると佐分利に言い、木村のアパートの部屋に大塚が来たところを見せて、驚愕させる。木村は、金に詰まって、大塚に頼むと彼女は、実家から持って来た指輪を木村にあげ、木村はそれを佐分利に、自分の失敗のかたに渡す。すると、佐分利は、そうした事情を知らずに、家に戻ってきて、大塚に上げるという皮肉は面白かった。また、手形を詐取したミシン会社の組合を暴力団を使って暴行するシーンも迫力あり、それを木村は、大塚を車に乗せて見るようにする。
木村は、佐分利の子分の垂水五郎ら暴力団員からも逃げて、山奥の小屋に潜むが、なぜか佐分利が来て、格闘になり、外の湖に木村は逃げる。佐分利は、持っていた拳銃で木村を殺し、自分も自殺する。戦後の混乱の中で、金のために悪辣な行為をする人間を描いていて、非常に面白かった。脚本は、猪俣勝人で、渋谷実監督の『現代人』と同様、戦後の人間の混乱、退廃を描くものとしては、結構成功していると思えた。日本映画専門チャンネル

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