Quantcast
Channel: 指田文夫の「さすらい日乗」
Viewing all articles
Browse latest Browse all 3529

『わかれ』

$
0
0
1959年の松竹映画、原作は高見順、脚本池田忠雄、監督は野崎正郎である。
野崎の作品には戦時中の孤独な少年を描いた作品に『広い天』があり、この予告編のラストで、担当の篠田正浩がベートーベンの『第九交響曲』の最後の合唱を使って話題となったそうだ。



話は、箱根の仙石原で女一人で旅館をやっている山田五十鈴と娘の鰐淵晴子で、鰐淵が大人となっていくことがテーマである。
冒頭は、劇作家の笠智衆が、ゴルフを終わって旅館に戻ってきて、友人で翻訳家の菅佐原英一の部屋に行くところから始まる。
鰐淵は、田舎の箱根から都会へ出ようとしていて、密かに鰐淵を想っているのは、使用人の安井昌二で、母親と共に働いていて、「飼い殺し」だという。
旅館内の男女関係はいろいろあり、番頭の佐竹明夫は、女中と愛し合っていて、その女性は名前は違うが、松井康子である。
松井は、学習院大出で、松竹の女優になるが、以前に知り合った若松孝二との約束で、若松のピンク映画に出る、ピンク映画初期の女優の一人である。
鰐淵は、インテリの菅佐原を好きで、菅佐原も愛しているが、問題は母親で、ぐずの菅佐原は、鰐淵に手紙で断ってくる。
娘の恋を心配した山田は、鰐淵に内緒に東京に来て、母親の村瀬幸子と会う。
村瀬は、インテリ女性で、「学者の家系で、いずれ偉い学者になる息子の嫁に旅館の女は相応しくない」と断言する。
この山田と村瀬の対決は凄い。

これを見て非常に驚くのは、佐竹と松井ができて妊娠し、結婚したいと言うと、山田は二人に退職を宣告することである。
文化人類学の「通婚圏」によれば、若い男女が存在する職場は、適当な場であり、そこでできたら首というのはひどい。
ただ、当時は民間企業でも、職場結婚になったら、どちらかは辞めると言うのは不文律で、横浜市でも職場結婚の際は、どちらかは異動するものだった。そして、男女のどちらかが課長になれば、その配偶者は退職するものだったようだが、今は勿論ない。

また、やはり女中だった鳳八千代と安井は恋仲にあったが、なぜか鳳は辞めて小田原の芸者になり、最後は九州に行くと言う。
彼女と鰐淵は仲が良く、鳳は別れるときに、鰐淵に安井は、密かに鰐淵を想っていると告げる。
この時、鰐淵は15歳だったそうだが、とてもそうは見えず大人である。
この鳳の客観的な忠告にしたがい、鰐淵は、安井と一緒になり箱根の旅館にいることを決意して終わる。
鳳は、非常にクールな演技で、やはり宝塚という西欧的な演劇の場にいたからだろうか。
ここにあるのは、都会と地方の格差、対立、インテリと庶民の差で、それぞれ分相応に生きるべきだとの意識だろう。
結構面白い映画だった。
衛星劇場


Viewing all articles
Browse latest Browse all 3529

Trending Articles