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Channel: 指田文夫の「さすらい日乗」
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『イヨマンテ・熊おくり』

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イヨマンテと聞いてすぐに思い出すのは、たぶん伊藤久男の大げさな歌だろう。
紅白歌合戦ほか、NHKでよく見たものだが、元は菊田一夫の『鐘の鳴る丘』の中の唄だそうだ。
菊田の『君の名は』には、北海道編があり、そのアイヌの娘は、北原三枝で、最後は佐田啓二に失恋し湖に身を投げて自殺してしまう。



菊田の表現には実際と違うところもあるようだが、これは本当にアイヌの萱野茂氏が、その地域の人や若者とやった「熊おくり」の儀式の記録である。
監督とインタビューは姫田忠義で、彼は民俗学の宮本常一に心酔し、全国の民俗的行事を映像化したが、非常に貴重な記録である。
最初に、小熊が飼育されている。約1年とのこと。
まず、男たちは森に行き、さまざまな木を切り出してくる。小枝で、祭式の祭壇の飾りや熊に当てる矢を作るもの。
小枝を用途に合わせて加工して行くが、それは男の仕事。
女は、米からどぶろく、粉からパンのような饅頭をつくっていく。

そして、当日は、まず熊を木で囲った折に入れ首に縄を付けたら、折から出して祭壇の前に引き出す。
そこには、近隣の村の代表が賓客として招かれている。

祈の後、木で作った多数の矢を放ち、熊は死ぬ。
小屋の中に熊を連れてきて、皮を剥ぎ、頭を切り、内臓も取り出す。
この時の熊はオスだったので、性器を取る。オスかメスかは、男女が綱引きをして戦い、その結果でオスかメスかを決めているとのこと。

この頃には、男はどぶろく、女は饅頭を食べ、祭式を祝う。
そして、祭壇に解体した熊の頭以下の手や足、そして性器等を木に立てかけて、あたかも熊がそこに立っているようにする。
その夜は、男女も歌い、踊るにぎやかな宴ですごす。
このようにして、熊おくりで、熊は神の世界に送られる。
ここには、熊の他、山の神、水の神、木の神、魚の神など、すべてに神がいる。
これは、そうした神々に感謝し、祝う祭式なのだ。
俗に神道では、日本には八百万の神がいるとされるが、それはこのアイヌの祭りにあるように、日本で狩猟採集を生業としていた時代の名残なのだと思えた。
この祭りが終わると、春が来て、狩猟の時を迎えるとのこと。
日本列島の一番古い時代のわれわれの祭式をはじめ生活と文化がうかがえる内容だった。
国立映画アーカイブ

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